ドナルド・トランプ米国大統領の就任演説(Inaugural Address of Donald Trump, January 20th, 2017)の全文を「英文読解用教材」にしてみました。演説直後に予告(⬇)していたもの。そこでお約束していた納期の下限よりも、例によって、2ヵ月近く遅くなりましたけれども何とかアップロードさせていただきます。
 
・予告&資料:「ドナルド・トランプ米国大統領就任演説(全文)」 de 英文読解のために
 
 
この就任演説(address:formal speech)をブログで取り上げようと思ったについては二つの理由があります。それは、この演説の
 
1)論理的な内容構成と英語的な英文の素晴らしさ
2)米国憲法論と法哲学から見た主張内容の見事さ
 
というポイント。加之、前任者のそれのように言葉とロジックは華麗かつ流麗であるけれど、基本的に――英語が話せなくはない、アメリカ生まれの大多数の普通のアメリカ国民を専ら聴衆に想定したものとしても、――リベラル派のインテリさんにしか、そのありがたみが伝わり難いものではなくて、普通の庶民のアメリカ国民、あるいは、寧ろ、英語があまり話せない、最近、メキシコから移り住んだようなアメリカ国民にも理解可能な平易な英語で語られたこと。よって、普通の、そう、TOEICで860点未満の、大部分の日本人ビジネスパーソンや日本の公立高校の大多数の英語の先生方にもわかりやすいという利点を加えれば「トランプ就任演説」には最低3個の長所があるのだと思います。
 
ただ、この第3の長所に関して大急ぎで補足。それは、トランプ大統領の就任演説は平易な言葉で語られたけれど、その平易さは、この<語られたテクスト>の英語が稚拙で野卑ということ同値ではないということです。例えば、前任のオバマ氏の就任演説やJFKの就任演説では、日本語の「国家」を表す際にはほぼ「nation」を用いて「country」は皆無に近いくらい希に出てくるだけなのですけれども――JFKの有名な「ask not what your country can do for you ; ask what you can do for your country」の箇所はその貴重な例外です!――「トランプ就任演説」では「nation」と「country」が巧妙に使い分けされている。または、助動詞「will」の語義も、それが置かれている各々のテクストの理路とコンテクストから見た場合、華麗かつ流麗なはずの前任者のwillが良く言えば礼儀正しく率直に言えば単調なのに、平易なはずのトランプ大統領の使うwillは実に多彩かつ精緻で聞くものを揺さぶる力(to stir)をもっている。
 
要は、学者先生とか国連NGOの専従さん、あるいは、ジャーナリストとかのリベラル派のインテリさんではなくて、その出身MBAの名前を見ても知的水準はリベラル派のインテリさんに優るとも劣らない、しかし、普通のビジネスピープルと競争したり協力したりすることが業務のほとんどを占めている日本人のビジネスピープルの大多数にとっては、オバマ氏の就任演説などより「トランプ就任演説」の方が30倍とまでは言いませんが、13倍は有益だろうということです。
 
而して、テクストの英文に盛り込まれた内容の面は如何。畢竟、それは「聴衆―読者」各位がご自分で判断されることでしょう。一つだけ言っておけば、しかし、「トランプ大統領の就任演説では外国のことはほとんど触れられていない。それは内向きでアメリカ国内のしかも自分の支持者向けのものだった」とかの批判や判定は間違っているのではないか。確かに、「トランプ就任演説」が外国について述べた部分は――念のため、再度、冷戦後の4人の大統領と比べましたが――有意に少ない。また、外国のことを述べた箇所でも――有名な「イスラム過激派を地球上から根絶する宣言」(S59)の箇所を含め――100%普通名詞が用いられています。けれども、それは同演説の2番目の長所の裏面であって、必ずしも、このことがゆえに「トランプ就任演説」の価値が下がることはないだろう。と、そう考えるのです。
 
 
このような「トランプ就任演説」に対するわたしの謂わば高評価から見ると、日本における同演説への一般的な評価はかなり低いように感じられます。例えば、池上彰氏は『世界を揺るがすトランプイズム――ビジネスマン、ドナルド・トランプを読み解く』(集英社・2017.2.28)の中でこの就任演説に触れてこう述べておられる。
 
「大統領の就任演説。これほど格調の低い演説があったでしょうか。トランプ大統領の就任演説は16分程度。自由も民主主義も語られることはありませんでした。歴代の大統領は、それぞれの理念にもとづいて、民主主義やアメリカの理想に語ってきたのですが。しかし、トランプの演説には、それがありませんでした。代わって語られたのが、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にする)」という選挙中の決まり文句でした。トランプ大統領は、この国をどこに持って行くのでしょうか。その点で方向を示したのは、「アメリカ・ファースト」という言葉でした。アメリカを第一に考える。アメリカの大統領であればとうぜんのことですが、ここでは、「他の国は他の国でかってにやってくれ」という含意がありました。・・・」(pp. 191-192)
 
蓋し 、「アメリカ大統領就任演説」に限らず、何をもってある<テクストの格調>の有無高低を判定するかは、かなりの程度、評者の自由に属することでしょう。例えば、トークやMCの巧みさで人気を博す指原莉乃は「正統派アイドル」ではないから、<正統派アイドル>の本地垂迹身たる渡辺麻友(まゆゆ:まゆまゆ)に比べて格調が乏しいとかを言う人がおられるとしても、それは、評者の自由でしょうよということです。而して、池上さんについては「自由や民主主義」そして「そんな自由や民主主義と整合的なアメリカの理想」なるものが盛り込まれない就任演説は格調が低いという判定をされるのはあなたの勝手ですけれど、その判定はそうは考えない他者にはなんら説得力はありませんと返答すれば充分だろうと思います。

 この池上さんの言説に関して問題なのは「理念もなかった」と述べられていること。上で「トランプ就任演説」の2番目の長所と記したように、わたしにはこのスピーチは近来希に見る、骨太の理念を――繰り返しますけれど、平易な言葉で――編み上げたテクストと思えるからです。蓋し、畢竟、それは、

>アメリカ合衆国は合衆国建国の理念に戻るべきだ❗

というシンプルなもの。例えば、(S10-27)(S82-85)に語られているトランプ大統領の思想は、以下に転記した、謂わば、アメリカ合衆国憲法の精髄とパラレルどころかアイソモーフィックでしょうから。実際、以下のテクストをみるとき、そこには「民主主義」の/み/の文字もないでしょう。日本の読者の皆さんを驚かせるようですが、アメリカ合衆国憲法は民主主義とは無縁というより、寧ろ、「民主主義とは疎遠な思想と理念の基盤の上に建てられた」というのは、現在では、リベラル派を含めアメリカの憲法研究者の共通認識なのですよ。


>PREAMBLE

We the people of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, insure domestic Tranquility, provide for the common defence, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America.

前文>
われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に 備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここに アメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。


>AMENDMENT ARTICLE TEN

The powers not delegated to the United States by the Constitution, nor prohibited by it to the States, are reserved to the States respectively, or to the people.

修正第10条 [州と国民に留保された権限] [1791 年成立]>

この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民 に留保される。

 
 
1980年代半ばから本格化した、アメリカ合衆国憲法の解釈方法論を巡る、所謂「原意主義―非原意主義:Originalism―Non-Originalism」論争に関して、原意主義側である保守派からの政治的の言葉でなされた最終回答が「トランプ就任演説」なの、鴨。と、そうわたしには思われるからです。尚、「原意主義―非原意主義」論争については下記の拙稿をご参照いただければうれしいです。また、英文テクストは、現在、ホワイトハウスのサイトに収録されているものではなく、BBC版を基にしました。ご心配なきように! 現在の双方の改訂版ではある1箇所を除き同じですから(笑)。では、なおさら、何故にBBC版を使ったのかについては本稿(下)で述べる予定です。
 
・書評予告・阿川尚之「憲法改正とは何かーアメリカ改憲史から考える」 
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/7eddb6f57b93ed69fbecdd5f75d06f2a
 
・宗教と憲法--アメリカ大統領選の背景とアメリカ建国の風景(序)~(急)⬅(序)は少しマニアックなので(破)からでもどうぞ!
 
・完版:保守派のための海馬之玄関<自家製・近代史年表>みたいなもの--(上)~(下)
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a3221c77ea0add17edf737d21088cf96
 
そして、次の(3)に少し詳しく説明していました。
 
・瓦解する天賦人権論-立憲主義の<脱構築>、
  あるいは、<言語ゲーム>としての立憲主義(1)~(9)
  http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/0c66f5166d705ebd3348bc5a3b9d3a79
 

ということで、以下、本編行きます。而して、
この言葉だけは前口上の最後に。
 
日本の保守派も、トランプとともに、
共に闘わん❗
 
・トランプを携えて日本再生―We also make Japan great again!
 
 
 

 
 

▼トランプ大統領の就任演説(英文全文)
▼We Will Make America Great Again

Chief Justice Roberts, President Carter, President Clinton, President Bush, President Obama, fellow Americans, and people of the world:
thank you.
We, the citizens of America, are now joined in a great national effort to rebuild our country and to restore its
promise for all of our people.
Together, we will determine the course of America and the world for many, many years to come.
We will face challenges. We will confront hardships. But we will get the job done. Every four years, we gather on these steps to carry out the orderly and peaceful transfer of power, and we are grateful to President Obama and First Lady Michelle Obama for their gracious aid throughout this transition. They have been magnificent.Thank you.


<語彙>
(S0-9)
great:偉大な(物理的な大きさや程度の尋常ならざる大規模さだけではなく、情緒的な尊敬や価値の高さも表します),  Chief Justice:アメリカ連邦最高裁判所の首席裁判官,  President:大統領(米国では現職の大統領と紛らわしくないケースでは、離職した大統領経験者を指す場合に通常は「前大統領/元大統領:former president, ex-president」とは呼びません。普通に美称を兼ねて単に「president」。実は、日本の政界でも総理大臣経験者は離職後も単に「総理」と呼ばれています ),  fellow Americans:今このアメリカ合衆国という国を担っている具体的な個々の同胞たるすべてのアメリカ国民の皆さん(ここは重要!「the Americans」と定冠詞+複数名詞ではないことに注意してくださいね),  people of the world:世界の諸国民の皆さん(このpeopleは――無冠詞かつ意味は複数なのですが単数形ですから――単に呼び掛けの用法と解すべきでしょう), the citizens of America:総体としての/全体としてのアメリカ国民, be joined in:~に参画する(受動態の形式ですが、意味は能動態に近いことに注意してください), a great national effort:国家的な一大事業,  rebuild:再建する,  restore:復活させる/回復する(cf. The Maiji Restoration「明治維新」), 

its promise for all of our people:アメリカ合衆国建国の際のアメリカ国民全体に向けて成された合衆国憲法の理念と主要な内容, determine:決定する/決意する(cf. decideに比べて、より重大なことをきめる/選択する), course:進むべき進路,  for years to come:今後何年も渡って(期間の長さを表しているのでduring yearsは不可ですよ), challenge:課題/困難な事柄, confront:直面する, hardship:可算名詞として用いられているので、主観的に捉えられる辛酸や辛苦の意味, get something  done:~を成し遂げる, .every four years:4年毎に, carry out: 運び出す/計画や命令などを実行する, the orderly and peaceful transfer of power:秩序だった平和的な権力の移行, grateful:感謝している,  First Lady:アメリカ大統領夫人,  gracious aid:礼儀正しい支援/慈悲深い援助,  throughout:最初から最後までの,  transition:移行(transferが行動を表しているのに対して、transitionは状況の変化を表しているとも言える、鴨 ), magnificent:気だかい, 

<和訳>
▼アメリカを再び偉大にしましょう
ロバーツ主席裁判官、カーター大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領、オバマ大統領、同胞たるすべてのアメリカ国民の皆さん、世界中の諸国の皆さま、ありがとうございます。
私たちアメリカ国民は今、この国を再建し、アメリカ合衆国憲法に記されている連邦政府と国民全員への約束を復活させるため、大いなる国家的事業に取り組むべく団結するに至りました。
私たちは一緒になって、今後何年も何年も続くであろう進路、そう、アメリカと世界の進路を定めようとしているのです。
私たちは今後さまざまな課題に直面することでしょう。さまざまな困難にも遭遇するに違いありません。私たちアメリカ国民は、しかし、この国家的な一大事業をやり遂げることでしょう。
4年ごとに私たちはこの【アメリカ連邦議会議事堂の】階段に集まり、秩序だった、かつ、平和的な権力の移行を行っています。而して、この度の政権移行のプロセスの全期間にわたって、誠実かつ寛大な支援を与えてくださったオバマ大統領とミシェル・オバマ大統領夫人に感謝します。お2人は実に高潔な方々でした。オバマ大統領ご夫婦、ありがとうございました。






Today's ceremony, however, has very special meaning. Because today we are not merely transferring power from one administration to another,or from one party to another - but we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the People.
For too long, a small group in our nation's Capital has reaped the rewards of government while the people have borne the cost.
Washington flourished-but the people did not share in its wealth.Politicians prospered - but the jobs left, and the factories closed.The establishment protected itself, but not the citizens of our country.
Their victories have not been your victories; their triumphs have not been your triumphs; and while they celebrated in our nation's Capital,there was little to celebrate for struggling families all across our land.

That all changes - starting right here, and right now, because this moment is your
moment: it belongs to you.
It belongs to everyone gathered here today and everyone watching all across America.This is your day. This is your celebration.
And this, the United States of America, is your country. What truly matters is not which party controls our government, but whether our government is controlled by the people.
January 20th 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again.The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer.
Everyone is listening to you now.You came by the tens of millions to become part of a historic movement the likes of which the world has never seen before. At the center of this movement is a crucial conviction: that a nation exists to serve its citizens.


<語彙>
(S10-27)
ceremony:儀式/式典, meaning:意味・意義/価値, administration:具体的なある特定の政権、就中、行政権力や執行権力, party:政党, Washington, D.C.:「首都ワシントン」で象徴される、連邦政府内部や連邦政府に食い込んでいるエスタブリッシュメントの政治勢力, give something back to:なにかを~に返還する,  you, the People:あなた方、すなわち、アメリカ国民の総体, capital:首都, reap:報酬などを受けとる, reward:報酬/報償金,  while:~だというのに、他方では,  bear the cost:その報酬を捻出するためのコストを負担する, flourish:繁栄を謳歌する, share in:共有する, politician:政治屋, prosper:成功して羽振りがよくなる,  the jobs:全体としての雇用,  the establishment:既存の支配層, the citizens:総体としての名もなき普通の国民有権者, victory―triumph:具体的な勝利や戦勝あるいは優勝―大勝利や大成功,  celebrate:祝う, struggle:窮地を脱しようと悪戦苦闘する,  all across our land:アメリカの国土の隅々に至るまで, 

moment:瞬間/~をなすべき時期, belong to:~に所属する/~にそれがあるべき所を決める資格がある, gather:集まる/集める, country:地理的にイメージされた国家, matters:考慮あるいは憂慮すべき問題,  government:一般的にイメージされた政府や統治の機構, whether:以下の名詞節の内容の通りか否かかどうかということ, January 20th 2017:1933年以降は、「閏年の翌年の1月20日」がアメリカ合衆国大統領の就任式の日になっています(アメリカ合衆国憲法修正20条1節), ruler:支配者, nation:民族的や国民の総体からイメージされた国家,  

forgotten:忘れられた/無視された,  no longer:もはや~ではない, by the tens of millions:数千万の単位や規模で, historic:歴史的に重大な(cf. historical はhistoric とほとんど同義になる場合もありますけれども、正式には「歴史学的な/歴史に関係の深い」の意味です),  the likes:似たようなもの/そのようなもの, crucial:死活的に重要な, conviction:確信・信念, exist:存在している/存続している,  


<和訳>
本日の式典には、而して、ある特別な意味があります。なぜなら私たちは今日、単にひとつの政権から別の政権に、あるいはひとつの政党から別の政党に権力を移行しているだけではないのですから。単にそのようなことではなくて、私たちは権力を<ワシントン>から、あなた方へ、そう、国民の皆さんに返還しようとしているのですから。
あまりにも長い間、これまで、この国の首都に巣くう少数の人たちのメンバーが政府の運営から支払われる報酬を当然のことのように受け取ってきていました。他方、国民の皆さまがその報酬を捻出するための負担を今まで担ってきていたのです。
栄える<ワシントン>と、そこ<ワシントン>を潤す富を共有してこなかったアメリカ国民。
豊かになった政治屋の反面、雇用は失われ、工場は閉鎖された。
この国の支配層は自分たち自身を守ってきたものの、彼等はこの国の国民有権者を守ることはなかった。
蓋し、エスタブリッシュメント層の勝利はあなた方の勝利であることはなかった。彼等の大成功はあなた方にとってはなんら成功ではなかった。彼等がこの国の首都で祝杯の喝采を叫んでいたとき、他方、アメリカの国土に住まう、生活のために悪戦苦闘しているほとんど全ての家族にとって祝うことなどほぼ皆無だったのではありますまいか。ありますけれども。に値することはほとんどありませんでした。


上述の如き状況は余すとことなく完全に変わることになる。而して、その変化は正にこの場所から、そして、正にこの大統領就任演説の時から始まるのです。なぜならば、この瞬間に凝縮している変化に通じている時空は皆さんのものだから。それはあなた方々のものなのですから。
それは、本日、ここ大統領就任式典に集まられた全員のものであり、加之、アメリカ全土でこの大統領就任の演説を注視してくださっているすべての方々のものでありましょう。
今日はあなた方の日。この式典はあなた方の祝賀なのです。
付け加えるなら、この国、アメリカ合衆国はあなた方皆さんの国でなかったはずはないのです。
真に肝要なことは、どちらの政党が我々のアメリカの統治機構の運営を担っているかなどではない。真に肝要なことは、私たちの政府がアメリカ国民の意向に沿って運営されているかどうかなのです。
ならば、而して、2017年1月20日という日は、アメリカ国民が再びこの国の支配者に返り咲いた日としてこれから記憶されることでしょう。
この国の忘れられた人々は、もう金輪際、忘れられることなどはありません。
国民の皆さんの声に誰しもが耳を傾けようとしています。
何千万人もの皆さんが、世界が今まで見たこともないような歴史的に重要な運動に参画したということです。
この運動の核心はある死活的に重要な一つの確信でありましょう。すなわち、それは、国民の国家は国民有権者に奉仕するためにのみ存在するという確信です。



<続く>
 ⬇
英文読解 one パラ道場:英語教材として読むトランプ大統領就任演説(英文全文)-【中】
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◆ガラパゴス化してしまっている日本リベラル派
この60日余り、New York Times掲載記事と朝日新聞の社説を何度か読み比べていて私はある確信を得ました。それは、朝日新聞に代表される日本のリベラル派の使う幾つかの用語の語義は世界的に見てもおそらく日本のリベラル派の脳内にしかない極めて異様な表象なのだろうという確信です。例えば、冒頭に引用した朝日新聞社説「クリミア投票--ゆがめられた民族自決」(3月18日)、そして、その前哨となった10日前の社説「ウクライナ危機--領土併合は認められぬ」(3月8日)で朝日新聞の社説子はこう述べていますから。

尚、これらの社説と関連する国際法--とりあえず、国連憲章(1945年6月署名-10月発効)--の条項は次のとおり。官報に掲載された外務省の訳は些か意味不明ですが英語正文の意味内容は明確です。ちなみに、占領憲法草案がGHQによって起草されたのは1946年2月上旬の10日間(2月3日-13日)、そして、その日本語訳としての占領憲法が公布されたのは1946年11月3日、施行が1947年5月3日。占領憲法には国連憲章の影響が少なくないことは、ある意味当然なの、鴨です。

Excerpt from the Charter of the United Nations
Chapter1 Purposes and Principles
Art. 1 The Purposes of the United Nations are:
2. To develop friendly relations among nations based on respect for the principle of equal rights and self-determination of peoples, and take other appropriate measures to strengthen universal peace;

Art. 2 The Organization and its Members, in pursuit of the Purposes stated Article 1, shall act in accordance with the following Principles.
1. The Organization is based on the Principle of the sovereign equality of all its Members.
4. All Members shall refrain in their international relations from the threat or use of force against the territorial integrity or political independence of any state, or in any other manner inconsistent with the Purposes of the United Nations.

国連憲章の関連条項抜粋
第1章 目的及び原則
第1条 国際連合の目的は、次のとおりである。
2. 人民の同権及び民族自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適切な措置をとること。

第2条 この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当たっては、次の原則に従って行動しなければならない。
1. この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
4. すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

同条項のKABU訳
第1章 目的及び原則
第1条 国際連合の目的は、次のとおりである。
2. 諸民族--現在および将来の主権国家を形成する主体であるか、あるいは、少なくともその主体の一部ではあるほどの個性と勢力、すなわち、政治的と社会的と文化的なまとまりを潜在的にせよ保っているひとまとまりの社会集団--は同等の権利をもっているという考え方、および、民族自決の考え方、これらの原則を尊重することに基礎をおいた諸国家間の友好関係を発展させること、ならびに、世界平和をより一層確実なものにしていくために適切と思われる他の措置をとること。

第2条 この機構およびその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当たっては、次の原則に従って行動しなければならない。
1. この機構は、「そのすべての加盟国の国家主権は平等である」という考え方、すなわち、主権平等の原則に基礎をおいている。
4. すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を、他国の領土保全または政治的独立を圧迫する態様において用いること、もしくは、国際連合の目的と両立しない他のいかなる態様においても武力による威嚇または武力の行使は慎まなければならない。


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▽ウクライナ危機--領土併合は認められぬ
「国境」とはなんだろう。国が主権の及ぶ範囲を人為的に定めたものにすぎない。現実には地球の多くの地で、同じ民族の人々が国境をまたいで暮らしている。国境の向こう側にわれわれと同じ言葉を話す住民がいるからといって、「そこもわれわれの領土だ」と主張すれば、どうなるか。未曾有の混乱と争いが世界規模で広がるのは目に見えている。だからこそ、国際社会は「主権と領土の一体性」というルールを掲げて、平和的共存を図ってきたのだ。・・・

▽クリミア投票--ゆがめられた民族自決
・・・ウクライナのクリミア自治共和をロシアに編入するかどうかを問うた住民投票は、国際的な反対に抗して強行された。編入に9割超が賛成したというが・・・反対派を銃口で沈黙させたうえでの投票は、国際法が定める「人民の自決の権利」とかけ離れているのは明白である。・・・

そもそも、独立や併合といった国境線の変更は、過去どのように認められてきたのか。近代に勢いを得た民族自決の権利は、植民地からの解放求める権利として、1960年代以降のアフリカ諸国などの独立を後押ししたものだ。冷戦後は、弾圧や内戦で民族の共存ができなくなった結果として、国際社会が独立を認めるケースが生まれた。旧ユーゴスラビアのコソボや、アフリカの南スーダンがその例だ。

それ以外では、当事者の間で分離独立の合意を平和的に築いている。チェコとスロバキアは93年に連邦を解体した。英国では、スコットランドの独立を問う住民投票が秋にある。クリミアの事態は、そのいずれにも当てはまらない。・・・

(以上、朝日新聞社説引用終了)


蓋し、朝日新聞の用いる「国際社会」、あるいは、「外交交渉」や「対話」や「平和」、もしくは、「国境」よって「国家」や「民族」なるものは世界的に見ても極めて異様な内包を抱えている用語であるか、あるいは、まったく無内容なもの、あるいは、その両方であろう。いずれにせよ、それらの意味内容や指示対象まで踏まえるとき、彼等日本のリベラル派が常用するこれらの<言葉>は日本のリベラル派の脳内にしか存在しないものであることは確実ではないか。私はそう考えます。

畢竟、確かに「国境」は人為的なものでしょう。しかし、「国境」が人為的なものなら--よって、その論理的帰結として「国家」もまた人為的なものなら--国際情勢と国内情勢の変動にともない独立にせよ併合にせよある国境が引き直されることは当然であり、そして、その国境の引き直しに際して<民族主義>がそれなりの威力を発揮することは善悪の問題ではない。

而して、「主権と領土の一体性」というルールは現前の国際秩序を理解する認識枠組みであり、現在の国際秩序をより平和的共存可能なものにする行為規範ではある。けれども、それは、より一層平和的共存可能な国際秩序に移行するために、あるいは、平和的共存可能性の度合いが劣化してきた現下の状況を打破するために、ある民族やある国民の--具体的にはクリミアやウクライナ東部のロシア系の人々とロシア国民の--<未来>の行動を縛る神通力も法的拘束力も帯びてはいない。

加之、「民族自決権」。説明するまでもないでしょうけれど、「民族自決」が権利であることは1950年の国連総会で採択確認され、国際人権規約(1966年)--経済的、社会的及び文化的権利に関する国連規約1条、および、市民的及び政治的権利に関する国際規約1条--にも組み込まれたもの。しかし、例えば、1960年の『植民地独立付与宣言』によって初めて、国際法上の「民族自決権」が植民地の独立に際しても適用される旨が明示された経緯を見れば明らかなように、「民族自決」(self-determination of peoples)の権利性の唱導は、遅くとも、第一次世界大戦直後のウィルソンであり、その主張はソ連の影響拡大に対する対抗措置として東欧諸国、ならびに、バルト諸国の政治的独立を促したものでしかないのです。


なにを私は言いたいのか。それは、「民族自決の権利は、植民地からの解放求める権利として、1960年代以降のアフリカ諸国などの独立を後押しした」などは「民族自決」のイデオロギーを巡る政治史と思想史の中では番外編の劇中劇程度の意義しかもたないこと。そして、「民族自決」のど真ん中の舞台は、英国のピューリタン革命、フランス革命、アメリカの南北戦争、もしくは、日本の明治維新に典型的な民族主義による国民国家形成の政治史と思想史であること。

後者を換言すれば、「民族自決」はゲルナーの言う意味での--「ある民族の地理的な分布と国際政治における政治的単位とを可能な限り一致させるべきだという主張である--民族主義の同義語にほかならない。ならば、民族主義がその内容においても説得力においても自己完結型のイデオロギーである以上、「民族自決」が人為的な現下の「国境」なるものの制約を原理的に受けることはないということです。而して、未来の国境の帰趨はある<民族>の民族主義の強固さとその<民族>の経済的と軍事的な実力の変数である。と、そう私は考えます。そして、諸民族が、百花繚乱、千紫万紅、咲き誇る<実存的な状況>としての「国際社会」なるものはそれ以上でも以下でもないということも。

蓋し、「外交交渉の歯車も加速させる」ことと「欧米による制裁強化」は矛盾しないし、白黒はっきり言えば、「外交交渉の歯車も加速させる」ことと「欧米およびロシアの双方の武力行使または武力による威嚇」もまた矛盾しない。要は、経済制裁も武力行使または武力による威嚇も<外交交渉>における持ち札に過ぎないだろうから。

いずれにせよ、少なくとも、朝日新聞が述べるようには「平和」なるものの価値、よって、「外交交渉」や「対話」の手段としてのプライオリティーが、現実の国際法秩序と国際政治において「民族主義」の価値、あるいは、ある種の「軍事的な交渉」や「武器を言語にして行われる対話」のプライオリティーに対してアプリオリに優っているとは誰も言えない。「対話を尽くす」という言葉の外延と内包には、「言語を武器にして行われる対話」の他に「武器を言語にして行われる対話」も含まれている。と、このことは確かであろうと思います。畢竟、日本のリベラル派の使う幾つかの用語の語義は世界的に見ても極めて異様な表象ではなかろうか。そう私は確信しています。


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木花咲耶姫



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In a series of moves that appear to have been planned carefully, Mr. Putin has taken Crimea, won huge popular support in Russia and in much of Crimea and left the West holding financial responsibility for the rest of Ukraine.

There is no doubt that Russia may seek to annex more parts of Ukraine. Russian military intervention is possible, but the Crimean strategy has proven much easier. Time and momentum are on Russia’s side, so Mr. Putin can be patient. If Ukraine’s eastern and southern regions continue to flounder while Russia grows richer, it is only a matter of time before large separatist movements will develop in these areas.

将棋に喩えればそれが登場した当時の藤井システムの如く、指されてみればそれは事前によく練られたものと今では誰もがそう思うだろう一連の手筋によって、プーチン大統領はクリミアを手にし、ロシア国内と大部分のクリミア半島エリアで巨大な世論の支持を獲得した。他方、西側諸国にはクリミアを失ったウクライナに対する財政支援の責務が残されただけという構図。

隴を得て蜀を望む。クリミアを手にしたロシアがウクライナの他の地域をも併合したいと虎視眈々なのは間違いない。実際、ロシアにとってウクライナに対する軍事介入も不可能ではないのだ。けれども、クリミアで用いた戦法はロシアにとって軍事介入などよりも遥かに効果的かつ廉価なことがそのクリミアで証明された。天の時、地の利、人の和のいずれもがロシアにある。よって、「鳴かぬなら鳴くまで待とう不如帰」とばかりにプーチン大統領にはことを急ぐ必要さえない。要は、ロシアが更に豊かになっていくのに対して、ウクライナの東部や南部が今後も経済的に呻吟を余儀なくされるとすれば、それらの地域でロシアによる併合を見据えた分離派が今よりも一層力を持つことは単なる時間の問題でしかないのだから。


Russia will make a success of Crimea as an example for others: pensions, government wages and other incomes can roughly double to meet Russian averages. The experience of debate and referendums in Quebec, Scotland, Catalonia and other regions all point to plausible democratic routes to exit that Russia can encourage.

A stable Ukraine, with an economy that catches up to its neighbors, is the best defense against disintegration. There is a chance to keep Ukraine united with its current borders (less Crimea), but it would require a striking change in Ukrainian economic strategy – something very hard to pull off with so many levers of power in the hands of the established political elite, who remain well entrenched.

クリミアにおけるロシアの勝利はウクライナの東部と南部の人々にアピールする実例にするだろう。なんといっても、クリミアでは、年金、公務員給与およびその他の所得はロシアの平均水準に合わせるべく大凡二倍になったのだから。他方、ケベック、スコットランド、カタロニア等々の地域で行われてきた議論と住民投票の蓄積はすべて、ロシアが蜀を求める上で、誰にも反論が難しい妥当かつ民主的な出口戦略をロシアに示唆している。

ならば、近隣諸国にけっして引けを取らない経済状況を具現した、ウクライナ国内の安定した政治的と社会的の状況こそ分離独立に抗する最良の方策である。すなわち、ウクライナには(もちろん、最早、クリミアが戻ってくることはないにしても)国家の政治統合を維持する目が全然残っていないわけではないということ。もっとも、肉を切らせて骨を斬る、骨を斬らせて命を絶つ、ウクライナがその国家の政治統合を維持するためには、経済財政分野における尋常ならざる異次元の政策転換が不可欠なのだろうけれども。而して、その政策の転換には、いまだに根強い既成の政治指導者層の手から相当の政治的な権限と影響力を奪いさるといった、実に、困難な措置が不可避なのだろうけれども。



Russia controls many of the levers for Ukraine’s success. It is Ukraine’s largest trading partner. Ukraine is heavily in debt to Russia and relies on Russia for most of its energy imports. Russia has been selling Ukraine natural gas at well below world prices. Russia also has substantial ability to promote riots, political intrigues and general instability. In short, unless Ukraine can normalize relations with Russia, it has little hope for growth.・・・

One thing that Ukraine could do soon, to encourage growth and harness the goals of the Maidan revolution, would be to move quickly, and in a high-profile manner, against all forms of corruption. ・・・Simplification of the tax system, changes in regulatory policy and changes to the judiciary can also reduce corruption.

他方、ロシア。ロシアはウクライナの成功のための鍵束の持ち主なのだ。ロシアはウクライナの最大の貿易相手国にして、巨額の債権国、更には、ウクライナはそのエネルギー資源のほとんどをロシアからの供給に頼っているという塩梅。実際、ロシアはこれまで国際的相場よりもあきらかに寛容な値段でもって天然ガスをウクライナに供給し続けてきている。あるいは、視点を変えてみれば、ロシアにとってウクライナ国内で暴動を引き起こすことなど御茶の子さいさい、政権交代再交代や国内を無政府状態に陥らせることさえけっしてやってやれないことではない。要は、ウクライナの経済成長には対ロシア関係の正常化が欠かせないということだ。・・・

その経済を成長させ、あるいは、親ロシア政権を倒した今般のマイダン革命の目的を幾らかでも具現するために、いますぐにでもウクライナが手をつけるべきことの中には、あらゆる種類の経済的と政治的な腐敗に対して迅速果敢な改革の措置を取ることが含まれてないはずはあるまい。・・・税制の簡素化、規制の改革、そして、司法制度の改革もまた腐敗根絶につながるかもしれない。

But to take all these actions requires political legitimacy, and this can only be acquired through new presidential and parliamentary elections. The European Union pact, any kind of I.M.F. program and large-scale moves against corruption require a government that can make long-term commitments and demonstrate political strength.

The current government was selected after violent street demonstrations and early on revealed an anti-Russian stance that is at odds with keeping the nation unified and with harmonizing relations with Russia. Until there is political capacity to achieve significant reduction in corruption, Ukraine’s growth prospects and its ability to remain unified, remain limited.


しかし、ウクライナの政府がこれらのどの措置を取るにせよその政府には政治的な正当性が不可欠であり、而して、その正当性は次の大統領選挙と議会選挙を経ないことには生起することはない。そのいずれもがウクライナ国内の腐敗には眉をひそめている、EUの対ウクライナ支援協定、IMFの諸々の支援プログラム、あるいは、「金も出すけど口も出すわよ」というタイプにならざるを得ないそれなりの規模の支援プログラムは、政治的に安定しており、かつ、指導力を備えたウクライナ政府を支援の条件として要求している。

現在のウクライナ政府は街頭デモの暴力の嵐の中で形成されたものであり、それは政権成立のかなり早期の時点で反ロシアの旗幟を鮮明にした。而して、ウクライナの国家的統合の維持強化と対ロシア関係の正常化という観点からは反ロシア姿勢の明確化というのは【鳩山由起夫の「東アジア共同体構想」ほどではないにせよ】馬鹿げたことというほかはない。いずれにせよ、国内に蔓延する腐敗を目に見えて除去することが可能な政治体制が成立しない限り、ウクライナの経済成長の見込みと国家統合をウクライナが維持する能力にはそう多くを期待できない。と、そう我々は考えている。


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(以上、海外投稿記事紹介終了、余滴に続く)




In the United States and Western Europe, discussion is focused on stopping Vladimir Putin from further expanding Russia’s territory. On present course, the West’s strategy looks set for more failure; only a major shift in economic strategy by the Ukrainian government is likely to make a significant difference. Giving or lending lots of money to Ukraine is unlikely to help and may even be counterproductive.

Ukraine’s economic failure over the last two decades is astounding. When the Soviet Union broke up in 1991, Ukraine’s gross domestic product per capita was greater than Romania’s, slightly higher than Poland’s and about 30 percent less than Russia’s. Today, Poland and Romania enjoy more than twice Ukraine’s income per person and Russia nearly triple.

プーチン政権によるこれ以上のロシアの領土的拡張を食い止めること、この点を中心軸にしてアメリカ合衆国と西ヨーロッパ諸国の議論は繰り広げられている。現在の所、しかし、それら米国と西欧の目論見は成功してきたとは言えまい。而して、ウクライナ政府の手による経済政策の大幅な変更こそ、これ以上のロシアの領土的拡張を阻止する上で唯一にして極めて有効なものであり、他方、ウクライナに対して膨大な資金を与えるなり貸し与えることは事態をなんら好転させない、否、寧ろ、逆効果でさえある。と、そう我々は予想している。

過去20年間にわたるウクライナ経済の失敗は惨憺たるものだ。例えば、ソヴィエト連邦が崩壊した1991年、国民一人当たりGDPで比較した場合、ウクライナのそれはルーマニアを大きく上回り、ポーランドさせ僅かに凌ぎ、そして、ロシアの国民一人当たりGDPに比しても30%少ないだけだった。今日、国民一人当たりGDP、逆に言えば、ウクライナの国民一人当たり所得はポーランドとルーマニアの半分足らず、そして、ロシアの三分の一というありさまなのだから。



This dismal performance reflects partly a lack of natural resources, but also self-interested leaders who have lined their pockets rather than focus on growth. The Orange Revolution of 2004 brought Viktor Yushchenko to the presidency, after more than a decade of pervasive corruption, but this episode proved to be a great disappointment. The Yanukovych years that followed were even worse.

Ukraine’s economic situation has recently become more desperate. If Ukraine is to pay all of its bills, the amount needed over the next two years to make debt payments and cover the budget deficit on its current trajectory add up to nearly $40 billion. These bills are growing daily because of the severe disruptions caused by the loss of Crimea, the continuing instability in eastern Ukraine and the nonpayment for gas deliveries from Russia. Because of the West’s unbending support for the current Kiev government, many Ukrainians expect large and generous support to help the nation out of this mess.

確かに、ウクライナ経済が現在あまり褒められた状況にはないことについては、この国が有望な天然資源に乏しいことも原因の一つではあろう。しかし、経済成長よりも私腹を肥やすことに熱心な【鳩山由起夫や菅直人、小沢一郎といった、2009年-20012年の日本の民主党政権の如き】自己中の指導者が続いてきたこともまた間違いなくその一つの原因であると言わざるを得ない。2004年のオレンジ革命はViktor Yushchenkoを大統領の地位に引き上げたけれど、その後10年余の腐敗の蔓延を通して、【日本では民主党政権が現在ではそう総括されているように】オレンジ革命による政変は大きな失望に変わった。そして、Yushchenko政権を引き継いだYanukovych政権の時代、事態は悪くなっても好転することはなかった。

而して、今日、ウクライナの経済状況は悲惨の度を深めている。実際、ウクライナが現在抱えている負債をすべて返済するとすれば、対外債務残高、ならびに、現状の政策路線を踏襲するとした場合に想定される財政不足と併せてその金額は向こう2年間に合計400億ドルの規模に達するものなのだから。そして、これら諸々の対外債務と財政赤字は、クリミアを失ったことを引き金として惹起した政治的と社会的との深刻なウクライナ国内の分裂、あるいは、東部ウクライナが最早中央政府の威令が届かない無法地帯になってしまっていること、更には、天然ガス中継に対する対価の支払いをロシアがしかとしていること、これらによってウクライナの負債規模は雪だるま式に日々膨れあがっている。ところが、現在のウクライナ政府に対してほぼ機械的かつ無条件に与えられてきた西側諸国からの支援を見てきて、それが当たり前のものとして目の当たりにしてきたウクライナ国民の中には現下の混乱状況からウクライナが離脱できるように、更に巨額かつ無条件の支援を期待する向きも少なくはないのである。


Western diplomatic actions in recent months have created nothing short of a fiasco for Ukraine and some of its neighbors. Diplomats overtly welcomed the change to an anti-Russian government in Kiev, and they celebrated the flight of the pro-Russian President Viktor Yanukovych. We were all pleased to see some highly corrupt politicians toppled, yet, in the midst of all these intrigues, some news organizations and diplomats lost sight of the end game with Russia.

With no credible military threat and an unwillingness of politicians to inflict pain by applying sanctions against Russia similar to those imposed on Iran, Western politicians proved toothless. The Germans do not want to disrupt the supply of gas from Russia, the British do not want to undermine their status as a financial haven, and the Americans are concerned about reprisals against their companies with large exposures in Russia (e.g., PepsiCo, Exxon or Citigroup).

ここ数カ月間の西側諸国が放った外交的措置は、ウクライナとその近隣諸国にとって、つまるところ壮大なる失敗以外のなにものでもなかった。ウクライナに反ロシア政権が成立したのを西側外交筋は公然と歓迎した。そして、彼等は親ロシア派のViktor Yanukovych大統領の逃亡劇を見て喝采を叫びさえした。而して、いずれにせよ西側の経済外交の識者は見事なほどに腐敗していた政治家が没落し排除されるありさまを見て溜飲を下げたものである。けれども、これらの政変劇の最中、少なくない西側の報道機関や外交筋は、ロシアが登場するこの劇の大詰めの展開、すなわち、ロシアがその手持ちの飛車角を盤上に叩きつける試合の終盤の展開を見失っていたと言わざるを得ない。

本気で軍事介入をする気がないこと、あるいは、そうイランに対するのとは違いロシアに対して手痛い経済制裁を科すことには明らかに腰が引けている西側の政治指導者の現下のありさまを鑑みれば、米国と西欧の政治指導者は張り子の虎か借りてきた猫でしかない。実際、ドイツはロシアからの天然ガスの供給を中断する事態を望んでいないし、英国はロシアマネーの投資先である現状を毫も傷つけたくはないのだ。そして、アメリカも(PepsiCoやExxon、あるいは、Citigroupといった)米国企業がロシアにおけるビジネスで他者に比べ格段に不利に扱われることになりかねない、対ロシア制裁に対するそんなロシアからの反撃を想起しては戦々恐々の状態なのである。


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(続く)





2014年5月25日、一応、ウクライナの大統領選挙が行われました。当選者は某チョコレート王の富豪さんとか。そして、このチョコレート王を含む少なくとも上位3人までが親米西欧派、すなわち、反ロシア派の候補だったとか。春秋の筆法になりますが、蓋し、親米西欧派が圧勝したこのウクライナ大統領選挙によってウクライナの分裂が--あるいは、ウクライナ東部の独立とロシア編入が--決定したの、鴨。と、そう私は考えます。

紹介するのは2カ月前のNew York Timesに寄せられた投稿記事「The Economics of Limiting Russia’s Expansion:ロシアの領土的拡張政策を抑えるものとしての経済」(March 20, 2014)。記事著作権を考慮して少し遅れての、かつ、部分訳での紹介です。原記事の関係者各位および読者の皆様双方にご了承をいただきたいと思います。

ネタバレになりますが記事タイトルの「The Economics」は、世界経済とかロシア経済--就中、ロシアに対する西側の経済制裁によって下降するかもしれないロシアの経済動向--なるナイーブな語義ではなく、限りなく「ウクライナ経済」に近いもの。しかも、ロシアの拡張を抑える鍵となるその「ウクライナ経済」の帰趨は西側からの援助などではなくウクライナ自体の改革の達成度とスピード--腐敗の根絶と自己責任の原則の浸透にともなわれた改革と成長--にかかっている、と。本稿の著者達はそう主張しています。

蓋し、私にはこの記事はウクライナ問題解決の一つの正しい処方箋と思われました。それは、例えば、同じ頃、朝日新聞が社説「クリミア投票--ゆがめられた民族自決」(2014年3月18日)で述べた次のようなナイーブで、結局、何も言っていないに等しい無内容なインクの紙魚の対極にあるものだ、とも。

尚、<国家>の分裂を巡る私の基本的な考えについては下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。そして、国際政治を巡る欧米と日本のリベラル派との雲泥の差については本稿末尾の【余滴:ガラパゴス化してしまっている日本リベラル派】をご一読いただければ嬉しいです。また、本稿の画像は「経済はロシアを制約などできない」という慧眼の著者達に賛意を表して、かつ、ウクライナ問題を通して日本にもいよいよ世界標準の国際法と国際関係の認識が再生する予感を言祝いで、本稿では美と再生の女神、木花咲耶姫と同一神格のほしのあきさんのものを投入させていただくことにしました。


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▽クリミア投票--ゆがめられた民族自決
ロシアのプーチン大統領は今のところ、米欧の説得を聞き入れるつもりはないようだ。ウクライナのクリミア自治共和をロシアに編入するかどうかを問うた住民投票は、国際的な反対に抗して強行された。・・・このままロシアがクリミア半島の併合に進めば、武力による領土拡張に等しい。国際社会の秩序を揺るがす暴挙から、プーチン氏は手を引くべきだ。・・・

国連安保理では、事前に住民投票を無効とする決議案を採決したが、ロシアが拒否権を行使した。だが、いつもはロシアに同調する中国は棄権した。ロシアの孤立は深い。幸いプーチン政権も、米欧との対話まで拒んでいるわけではない。大国の身勝手さが過ぎるとしても、クリミア半島の代償としてウクライナを欧米側に追いやる事態は望むまい。欧米が制裁を強めるのは当然だが、同時に外交交渉の歯車も加速させるべきだ。ウクライナの新政権もまじえ、対話を尽くすほかあるまい。

(以上、引用終了)


・国家の分裂を巡る憲法と国際法
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62383753.html

・ナショナリズムの祝祭としてのオリンピック
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62341272.html


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The Economics of Limiting Russia’s Expansion
By PETER BOONE and SIMON JOHNSON

DESCRIPTION
Peter Boone is chairman of the charity Effective Intervention and a research associate at the Center for Economic Performance at the London School of Economics. He is also a nonresident senior fellow at the Peterson Institute for International Economics. Simon Johnson is a professor at the M.I.T. Sloan School of Management and former chief economist at the International Monetary Fund.


ロシアの領土的拡張政策を抑えるものとしての経済
PETER BOONEおよびSIMON JOHNSONによる共同執筆記事

共同執筆者紹介
Peter Booneはthe charity Effective Interventionで議長を務めると同時に、ロンドンスクールオブエコノミクスのthe Center for Economic Performanceの研究員。また、彼はthe Peterson Institute for International Economicsの在外上級メンバーでもある。 国際通貨基金(IMF)でチーフエコノミストを務めたSimon Johnsonはマサチューセッツ工科大学のビジネススクールSloan School of Managementの教授。


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(続く)


プロフィール

KABU

Author:KABU
大東亜戦争終結後のこの社会で跳梁跋扈し猖獗を極めた戦後民主主義の批判を果敢に推進するための
yahoo版のミラーブログ。
2007年9月10日以降の新記事を随時、厳選した過去の自薦稿を漸次アップロードしていきます♪

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