【川も国家も時に分裂する】


ある国家が分裂した場合、分裂前の元の国の憲法はその離脱した地域にとっては単なる「古新聞」にすぎません。それは、--例えば、連邦離脱の手続規定が憲法典に定められており、かつ、事態の進行がその規定に粛々と従ったようなケースではない、そう、今般のクリミア自治共和国の独立とロシアへの併合のようなケースは--立憲主義の否定ではなく<憲法>や<法>自体の限界というべきもの。

だから、そのような事態を避けようとすれば、元の国側が取りうる対応は、これまた<憲法>や<法>とは位相を異にする実力によって、つまり、内戦によって離脱した地域や人々を引き戻すしかない。この典型的な例が南北戦争でありフランス革命であり、あるいは、明治維新であり支那の国共内戦だった。他方、引き戻しが不成功の場合には、離脱した新しい国において、新しい<憲法>と<法>が成立して、そこからその新しい国において新たに立憲主義が起動し始める。と、それだけのことなのです。

重要なことは、この引き戻しは「自由・平等・博愛」なり「天賦人権」なるものの価値から基礎づけられることはなく、ダイレクトに<ナショナリズム>そのものから--エスニカルなものではなく「国民国家」のイデオロギーの裏面たる「フランス国民」や「アメリカの不可分の領土」なる政治的神話から--基礎づけられるということでしょう。と、そう私は考えています。


クリミアがロシアに併合されたように、分裂し離脱した地域が別の国の領土に編入される場合、
それは国際法が禁じる侵略なのでしょうか。そのような事態は、

(1)併合した国の侵略行為なのか
(2)離脱した地域の民族自決権の行使の帰結なのか



国連憲章には(1)(2)のいずれとも言える規定が存在する。すなわち、主権国家の「主権の平等と不可侵」(1章2条1項)、そして、人民の「民族自決権」(1章1条2項)の規定。つまり、今般のクリミアの事態は国際法的には表面的に相矛盾する二つの法規範の衝突に起因する事態なの、鴨。

けれども、実は、国際法上「侵略の定義」は定まっておらず--アメリカのニカラグア侵攻のケースでも明らかなように、国際司法裁判所の違法判決などは単なる「評論家のコメント」にすぎず--、ある事態が侵略かどうかは、個々の事件毎に国連の安全保障理事会が判断することなのです。そして、私の記憶が間違っていなければ、確か、ロシアは国連安保理の常任理事国。ならば、クリミアのロシア併合を侵略と看做す判断に対してロシアが拒否権を行使しないはずがない。もって、国際法上は今般のクリミアの事態は(1)侵略ではなく、よって、それは(2)正当な民族自決権の行使の自然な帰結と解すべきなのです。


蛇足ながら一言。すなわち、主権の平等や不可侵--主権の単一性や一体性--という表象は、ある時点の静態的な国際法秩序を理解するための認識枠組みやパラメーターにすぎず、それは、現実の国際秩序の変化の動態を規制する効力を帯びたルールでは必ずしもないということ。このことが日本ではしばしば誤解されているのではないでしょうか。

いずれにせよ、今般のクリミアの独立とロシアへの併合は、よりエスニカルな色彩の濃い<ナショナリズム>が--少なくとも、クリミア半島においては社会統合の神通力の点で劣る--ウクライナの<ナショナリズム>に優っただけのことであろう。と、そう私は考えています。尚、ナショナリズムとエスニシティーの関連、憲法とナショナリズム、および、憲法と国際法の関連については下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。


・ナショナリズムの祝祭としてのオリンピック
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62341272.html

・「偏狭なるナショナリズム」なるものの唯一可能な批判根拠(1)~(6)
(特に(4)(6)で些か詳しく憲法と国際法の関連について述べています)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/59953036.html


・立憲主義の無知が爆裂した朝日新聞(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62314363.html

・樋口陽一の文化帝国主義的憲法論の杜撰と僭越(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62298200.html


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テーマ : 国家論・憲法総論
ジャンル : 政治・経済



【龍、あるいは、紙と竹の作り物、そして、観光資源にして大牟田市民の誇り大蛇山】


朝日新聞を開けば、「実質的な憲法の番人だった内閣法制局が政治に従属することは立憲主義の蚕食」、あるいは、「集団的自衛権の行使の容認は解釈改憲ではなく憲法の改正によって行うのが筋」とかの意味不明な主張が珍しくありません。

うみゅー、「憲法の番人」て何? 
それ美味しいの?


要は、「内閣法制局が実質的な憲法の番人」だったというのは、つまり、朝日新聞を始めとするリベラル派が好ましいとする「集団的自衛権を日本は国際法上保有しているけれども、憲法上は行使できない」という主張を--実は、戦後も70年代なのですけれども--これまで内閣法制局が述べてきたというだけのこと。それだけではないのでしょうか。

而して、集団的自衛権と個別的自衛権を区別しない現在の世界標準の国際法論、そして、自衛権を--よって、自衛戦争を--<憲法の事物の本性>に含ませる現在の世界標準の憲法論から見れば、「集団的自衛権を日本は国際法上保有しているけれども、憲法上は行使できない」というような主張を重ねてきた内閣法制局は「憲法の番人」などではなく「憲法の蛮人」であった。と、そう私は考えます。

いずれにせよ、実質的にも本質的にも<憲法の番人>は司法府でしかない。そして、白黒はっきり言えば、司法府も国家権力の一部であり--だって、「三権分立でしょうが!」--、ならば、政治と無縁ではありえない。つまり、<司法>も政治的影響力を有し、他方、他の2権あるいは世間からの政治的影響を受けることもまた不可避ということ。ただ、<司法>の加被の政治的色彩は、あくまでも、法の解釈を通して、その結果を通して示唆されるということは忘れてはならないと思いますけれども。

而して、重要なことは、国民の権利の制約を巡る司法審査とは異なる、「統治行為マター:political questions」に関しては、<司法>には憲法の解釈権限がなく、よって、司法府は「憲法の番人」ではないということ。それは一重に、政治に関わることを本分とする、本来の政治セクターである行政府と立法府の管轄ということ。

畢竟、安倍内閣が--政治責任を甘受する覚悟をもって--集団的自衛権の政府解釈の変更を行うことは憲法論から見て毫も批判される筋合いはない。と、そう私は考えます。「集団的自衛権の行使の容認は憲法の改正によってではなく政府解釈の変更で行うのが筋」であるとも。

・立憲主義を守る<安全弁>としての統治行為論
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62198131.html


蓋し、「実質的な憲法の番人だった内閣法制局が政治に従属することは立憲主義の蚕食」などというリベラル派の主張の基底には--その政治的なマヌーバーとは別に、先進国の近代の憲法典と司法審査の実際を見るに--、①憲法は閉じられた体系であり、これまで蓄積されてきた司法や行政の憲法解釈は螺旋状にせよ、漸次、現存している究極の正しい憲法の意味内容に接近してきたものであり、ならば、②その蓄積されてきた、例えば、外国人の指紋押捺の禁止なり、あるタイプの定住外国人に対する社会保障の給付なり、そして、集団的自衛権の不行使などを否定することは、そのような--憲法の閉じた体系としての--現存している究極の正しい憲法の意味内容を否定するものだという憤りがあるようにも思います。

けれどね、現在の世界の法哲学の地平において<憲法>といわず<法>は閉じた体系とはほとんど誰も考えていません。すなわち、①②は19世紀的な--マルクス主義を含む古い科学主義的な--「概念法学」的の認識なのかもしれません。

いずれにせよ、現在の世界標準の憲法論と法哲学では<憲法>も<法>も開かれた体系と考えている。例えば、--外国人犯罪が激増する、日本の社会保障財源が枯渇する、支那の脅威が益々高まる等々の事情があれば--外国人の指紋押捺の再開なり、あるタイプの定住外国人に対する社会保障の給付打ちきり、そして、集団的自衛権の行使の肯定も当然正当な占領憲法の解釈なのです。所かわれば法が変わる、だけではなく、事情が変われば法は変わるのです、可逆的にもね。要は、「先進国の近代の憲法典と司法審査の実際」なるものを自説の根拠にできるという心性は100年ほどアウトオブファッションであるだけでなく「文化帝国主義の心性」そのものだということ。


では、逆に、100人の首相がいれば100通りの憲法解釈があるのでしょうか。
それがそうでもなかとです。

このことは、例えば、アメリカの憲法訴訟の歴史において、「デュープロセス理論」や「明白にして現在の危険のアイデア」が、時代により幾度となくその時の主要な主張者の陣営が左右の間を振り子運動したにせよ、「デュープロセス」「明白にして現在の危険」の意味内容自体は深化し細分化されてきた経緯を鑑みれば、よって、100人の大統領も、100人の連邦最高裁裁判官もけっして恣意的にそれらの理論やアイデアを自己が好ましいと考える憲法解釈を正当化するために使えるわけではない現実を想起すれば自明でしょう。

おのずと、そこには憲法テクストの大枠が存在しており、かつ、憲法理論の蓄積もまた存在している。なにより、「何が憲法の意味内容なのか」に関する国民の法的確信が得られなければ、99人の大統領や99人の連邦最高裁裁判官の憲法解釈も単なる呟きにすぎないということ。

而して、集団的自衛権のこれまでの政府解釈が憲法理論的にも国際法的にも到底維持できない杜撰なものである以上、それを現下の事情を鑑み、かつ、「統治行為マター」の有権解釈者である内閣が変更することは--政治的にはいざしらず--寧ろ、法理論的には極めて妥当なことではないか。と、そう私は考えます。

畢竟、「解釈改憲」なる法理論的には意味不明な言葉を、しかも、「前のめり」や「腰高」や「乱暴」なる一層空虚な<詩的言語>で批判する朝日新聞を始めとする集団的自衛権の行使容認反対論は、法論理的には「もう、お前は死んでいる」、<北斗の拳>なのだろうということもまた。


尚、集団的自衛権を巡る私の基本的理解、および、<憲法>自体に関する理解に関しては下記拙稿をご一読いただければ嬉しいです。



・国連憲章における安全保障制度の整理(上)(下)
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11137361486.html

・集団的自衛権を巡る憲法論と憲法基礎論(上)(下)
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11137373660.html


・憲法とは何か? 古事記と藤原京と憲法 (上)~(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60444652.html

・保守主義の憲法観
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60996566.html


テーマ : 国家論・憲法総論
ジャンル : 政治・経済




ニューヨークタイムズの記事や社説などは、日本のスポーツ新聞程度のもの。うにゃ、以下、鴨。と、そのことが露呈した有名な社説を紹介します。正直、解題は不要でしょう。そう、安倍総理は一度も「南京大虐殺がなかった」などとは言っていない、そして、安倍内閣は「河野談話の作成過程の検証をする」と言っているのであって「河野談話を撤回する」とは(まだ)表明していないのだから。

而して、歴史認識を巡る問題--ニューヨークタイムズ等の文化帝国主義の醜悪さも含めた「歴史認識」を巡る問題--、就中、所謂「従軍慰安婦」なるものについては下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。出典は「Mr. Abe's Dangerous Revisionism:安倍首相の歴史修正主義が孕む危険性」(2014年3月2日)です。

・安倍総理の歴史認識を批判する海外報道紹介(1)~(12)+後記(上)(下)
(「後記(下)」に所謂「従軍慰安婦」なるものを巡る現下の論点をまとめています)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61855076.html

・安倍総理の逆襲-「従軍慰安婦」という空中楼閣に依拠した
 New York Timesの自民党新総裁紹介記事(上)~(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61507543.html


・橋下「慰安婦発言」批判の海外報道紹介
 --歪んだ論理の磁場の確認とその消磁化の契機として(1)~(9)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61938729.html

・「慰安婦は必要だった」--慰安婦問題を巡る橋下氏の発言は妥当である--
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61865685.html


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Mr. Abe's Dangerous Revisionism

Prime Minister Shinzo Abe’s brand of nationalism is a becoming an ever more serious threat to Japan’s relations with the United States. His use of revisionist history is a dangerous provocation for the region, which is already struggling with China’s aggressive stance in territorial disputes in the East and South China Seas.

Mr. Abe, however, seems oblivious to this reality and to the interests of the United States, which is committed to defend Japan by treaty obligation and does not want to be dragged into a conflict between China and Japan.

安倍首相の歴史修正主義が孕む危険性

安倍晋三首相が夙に掲げてきた民族主義が日米関係にとってかってないほどの障害になってきている。歴史修正主義からの安倍首相の言動が東アジア地域で憤激を巻き起こしているということだ。それでなくとも、この地域はすでに東シナ海と南シナ海における支那の強面で喧嘩上等的な姿勢によって争いがたえない状態なのだけれども(★)。

安倍首相は、しかし、この危機的な状況が惹起しているという現実が分かっていないらしい。また、安倍首相はアメリカの国益がいかに安倍首相の言動が生起させつつある現下の状況に左右されているかということも分かっていないようだ。アメリカは条約に基づき日本を防衛する義務を負っているものの、支那と日本との紛争に巻き込まれたくなどないのだから。


★コメント:

じゃー、NYTのEditorial Boardは、日本にではなく、
百歩譲って日本にだけでなく、支那に物言いをつけなさい!


Mr. Abe’s nationalism can be hard to decipher, because it is not directed against any country. It is directed instead against Japan’s own history since World War II, which he finds shameful. He wants to shed what he calls the self-effacing postwar regime and recreate a renewed patriotism.

But before he gets to Japan’s postwar culture, he also whitewashes the history of the war. He and other nationalists still claim that the Nanjing massacre by Japanese troops in 1937 never happened. His government on Friday said that it would re-examine an apology to Korean women who were forced into sexual servitude by Japanese troops. And he insists that visiting the Yasukuni Shrine, which honors Japan’s war dead including convicted war criminals, merely shows respect for those who sacrificed their lives for their country. Despite clear signals from Washington to refrain from visiting the shrine, he went in December.

安倍首相の民族主義の内容を解読することはそう容易いことではない。なぜならば、首相の批判的の言動は他国に対してではなく、首相自身それを恥ずべきものと考えている、第二次世界大戦後の自国内の歴史認識に対して向けられているからである(★)。安倍首相は自身が控え目な戦後レジュームと呼んでいるものを脱ぎ捨てて新しく愛国主義的な体制を再構築したいと考えているのだ。

日本の戦後体制の再構築に手をつける前に、しかし、安倍首相は戦時中の歴史認識をご破算にしようしている。安倍首相および民族主義的な論者は、1937年に日本軍部隊が行った南京大虐殺事件などなかったとさえいまだに主張しているのだ【←NYTの自爆箇所です】。金曜日【2014年2月28日】、安倍政権は、日本軍部隊によって性的隷属状態におかれた韓国人女性に対する謝罪を再検証すると発表した【←NYTの自爆箇所です】。そして、それは単に自国のためにその生命を捧げた人々に対して尊崇の念を表することだとして、戦犯を含む戦死者を追悼する施設の一つである靖国神社に参拝する意向を明示している。而して、実際、アメリカ政府の明確な自粛の要請にもかかわらず、12月に安倍首相は靖国神社に参拝したのである。

★コメント:

じゃー、それは「民族主義」じゃないんじゃないの?
少なくとも所謂「偏狭なナショナリズム」ではないよね。

・戦後責任論の崩壊とナショナリズム批判の失速
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/59898544.html

・「偏狭なるナショナリズム」なるものの唯一可能な批判根拠(1)~(6)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/59953036.html


A confrontational relationship with China at this time could help him convince a deeply pacifist people of the need for heightened defense preparedness. It seems a peculiarity of Japan that those who advocate a greater military posture tend to overlap with historical revisionists. Mr. Abe’s nationalism aside, however, neither he nor other mainstream Japanese leaders are about to enhance Japan’s military capabilities without American consent because they are deeply committed to the U.S.-Japan security alliance.

Correction: March 5, 2014
An earlier version of this editorial incorrectly stated that the Abe government would possibly rescind an apology to Korean women who were forced into sexual servitude by Japanese troops.

現下の支那との対立状態は、日本の極めて平和主義的な国民各層に対して、安倍首相が推し進める軍備の増強の必要性を受け入れさせる要因かもしれない。而して、歴史の見直しを求める層と軍備の増強を求める層がほとんど重なっていることが日本の特性と言えるかもしれない。いずれにせよ、安倍首相の民族主義は置いておくとしても、しかし、安倍首相を含むどの日本の主要な政治指導者もアメリカの同意と承諾なしに日本の軍事力の増強を推し進めることはできない。なぜならば、日米安保条約によって日米両国は日本の防衛について緊密に結びついているのだから。

修正:2014年3月5日
本社説の初稿の間違を修正しています。すなわち、初稿では、日本軍部隊によって性的隷属状態におかれた韓国人女性に対する謝罪を安倍政権は取り消す(rescind)かもしれないと記していましたがそれは間違いでした(★)。


★コメント:

社説自体を取り消せば(Would you rescind this editorial itself)?
少なくとも、これは(支那あるいは欧米と)日本に対する完全なダブルスタンダード的
の視点から書かれた社説でしょう。やはり、NYTは週刊現代とかスポーツ新聞以下。


・歴史認識の相対性と間主観性--朝日新聞も<歴史の相対性>を悟ったみたい(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62290221.html

・平和主義とは何か--戦前の日本は「軍国主義」だったのか?--(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62147174.html


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テーマ : 歴史捏造「従軍慰安婦」
ジャンル : 政治・経済





朝日新聞2014年2月19日に面白い記事が掲載されていました。
前口上抜きに要約転記。←手抜きではありません。


「反知性主義」への警鐘
「反知性主義」という言葉を使った評論が論壇で目につく。・・・政治的な問題発言が続出する現状を分析・批判しようとする意図が見える。

「嫌中」「嫌韓」「反日」--首相の靖国神社参拝や慰安婦問題をめぐり日・中・韓でナショナリステックな感情が噴き上がる現状を、週刊現代は問題視して特集した(1月25日&2月1日合併号)。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は対談で、領土問題や歴史問題をめぐる国内政治家の近年の言動に警鐘を鳴らした。その中で使った分析用語の一つが「反知性主義」だ。・・・

どう定義しているのか。「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」だと佐藤氏は述べる。新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中に閉じこもる姿勢だ。とりわけ問題になるのは、その物語を使う者がときに「他者へ何らかの行動を強要する」からだという。・・・

フランス現代思想研究者の内田樹氏も昨年12月、反知性主義が
「日本社会を覆い尽くしている」とツイッターに書いた。・・・

同じ月、米国の歴史学者ホーフスタッターの著書『アメリカの反知性主義』の書評をネットの「書評空間」に寄稿したのが、社会学者の竹内洋氏(関西大学東京センター長)だった。ホーフスタッターが同書を発表したのは半世紀前。邦訳されたのも10年前だ。なぜいま光を当てたのか。「反知性主義的な空気が台頭していると伝えたかった」と竹内氏は語る。反知性主義の特徴は「知的な生き方およびそれを代表するとされる人びとにたいする憤りと疑惑」であると同書は規定する。・・・

同じ「反知性主義」に警鐘を鳴らしても、佐藤・内田・竹内氏の主張は力点が違う。だが佐藤氏は、3人には共有されている価値があると語る。「自由です」

反知性主義に対抗する連帯の最後の足場になる価値だろうとも言う。「誰かが自分に都合の良い物語を抱くこと自体は認めるが、それを他者に強要しようする行為には反対する。つまり、リベラリズムです」

(以上、引用終了)


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私の感想は次の二点。

・「反知性主義=保守派」とどうして言えるの?
・「戦後民主主義」、就中、「脱原発論」こそ間違いなく「反知性主義」ではないかい?


いつから、そして、どんな根拠に基づいて、ナショナリズム批判的な立場なりリベラル派の主張が「知性的」で、ナショナリズムを称揚する立場や保守主義の立場が「反知性主義」になったのでしょうかね。もちろん、佐藤・内田・竹内氏はそうとまでは言っていないけれど、朝日新聞の記者の手を潜ると自動的「反知性主義=保守派」という構図になるように感じるのは私の気のせいでしょうか。いずれにせよ、このようなレッテル貼りはあまり生産的ではないように思います。

而して、「自分に都合の良い物語を抱き、それを他者に強要しようする行為」というのは、首相の靖国神社参拝にせよ、歴史認識の見直しにせよ、憲法改正にせよ、朝日新聞に代表される戦後民主主義を信奉するリベラル派の行動パターンそのものでしょう(★)。

就中、科学的根拠の乏しい無意味な「低線量積年平準放射線被曝の上限基準」を死守して、いまだに多くの福島の原発事故避難者を悩ませ、毎月毎月30人前後の「原発関連死者」を増やし、あろうことか、いまだに風評被害を引き起こしている脱原発論の論者は--単なるレッテル貼りではなく--間違いなく「反知性主義」の徒であろう。と、そう私は考えます。

あれから3年。3月11日のこの日。
最後の「脱原発論=反知性主義」規定は、
冗談抜きにかなりの覚悟をもって記しておきます。


東日本大震災で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。




★関連記事

・瓦解する天賦人権論-立憲主義の<脱構築>、
 あるいは、<言語ゲーム>としての立憲主義(1)~(9)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61686136.html

・憲法96条--改正条項--の改正は
 立憲主義に反する「法学的意味の革命」か(1)~(6)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/61963692.html

・樋口陽一の文化帝国主義的憲法論の杜撰と僭越(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62298200.html

・アーレントの言葉でアーレントを否定した
 毎日新聞の<脱原発ファンタジー>コラム(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62301752.html



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テーマ : 保守主義
ジャンル : 政治・経済



【社説が書かれた2月9日の豊葦原之瑞穂国の夕日】


ファイナンシャルタイムズ社説を紹介します。出典は「Abe’s nationalism takes a worrying turn:ナショナリズムに向かう安倍首相の憂慮されるべき軌道修正」(February 9, 2014)です。ファイナンシャルタイムズの著作権を配慮してリリースから1カ月後のエントリー。前半は朝日新聞の引き写しのようで嗤ってしまいましたが、最終パラグラフはひと味違う、鴨です。


Abe’s nationalism takes a worrying turn
Much of the motivation for Abenomics, Japan’s bold gambit to breathe life into its economy, comes courtesy of Beijing. It was fear of a rising, more assertive China that led the Liberal Democratic party to turn to the jingoistic Shinzo Abe in the first place and convinced many Japanese to hold their nose and vote for him. It was the same conviction that persuaded Mr Abe himself that something had to be done to rid the country of 15 years of deflation and to build a prosperous country capable of defending its interests. For a while Mr Abe, a revisionist who thinks Japan has been unfairly singled out for criticism about wartime atrocities, concentrated on getting his economic plan up and running. Now, more than a year into a premiership likely to last at least until 2016, he is pushing his nationalist agenda more forcefully - with some worrying implications for Japanese democracy.

ナショナリズムに向かう安倍首相の憂慮されるべき軌道修正
アベノミクスの狙いの多くは支那を睨んだものである。ちなみに、アベノミクスとは、その経済再生に向けた日本の大胆な経済戦略なのだけれども。自民党が好戦的愛国者の(jingoistic)安倍晋三氏をその総裁に選んだのは興隆する、益々独善的で強面になりつつある支那に対する脅威を感じたためだった。そして、この経緯は、日本国民の多くが安倍氏の胡散臭さに対して片眼を瞑っても安倍自民党に投票しようと考えたこととも通底している。而して、支那が脅威であるというこの確信が、15年間の経済衰退からこの国を抜け出させ、国益を守りうる繁栄する国に日本を再建すべくなにかをなさなければならないと安倍氏自身に確信させた当のものだ。戦時中の残虐行為に関して日本は他の諸国に比べて不当に批判され続けていると考える歴史修正主義者(a revisionist)の安倍首相は首相就任後しばらくは経済戦略の立ち上げと実行に注力してきた。けれども、首相就任から1年余が経過した現在、かつ、安倍政権がおそらく最短でも2016年までは続くと見られている現在、安倍首相は自身の民族主義的の政策課題により積極的に取り組もうとしている。その民族主義的の政策課題は日本の民主主義を脅かす要素を幾分含んだものなのだけれども。


In December Mr Abe visited the controversial Yasukuni shrine against the advice of Washington and in defiance of diplomatic sense. The prospects of dialogue with Beijing - and perhaps even South Korea - have sharply receded as a result. Before his visit to Yasukuni, the government rammed home a secrecy bill that is too draconian. There is always a balance between security and freedom of speech. But Japan’s law tilts too far towards secrecy.

12月、安倍首相は、アメリカ政府の助言に反して、かつ、外交的な思慮分別を度外視して論争の渦中にある靖国神社に参拝した。これにより支那政府との--そして、おそらく韓国政府とも--対話の見込みは一気にしぼむことになった。あるいは、首相の靖国神社参拝の前、安倍政権は極めて過酷な秘密保護法の成立を断行した。もちろん、どの国においても安全保障と言論の自由の間には常に緊張関係はあろう。けれども、日本の同法は秘密の保護側に大きく傾いたものである。


Suspicions about the state secrets law have been reinforced by Mr Abe’s clumsy attempt to rein in NHK, the national broadcaster that is Japan’s equivalent of the BBC. In December the NHK board appointed Katsuto Momii as president. He has alarmed many by suggesting that NHK should not challenge the government on important issues. ・・・

秘密保護法に対する懸念は、而して、日本におけるBBCとも言うべきNHKを牽制しようとする安倍首相の傍若無人な着手によって一層高まっている。すなわち、12月にNHKの経営委員会は籾井勝人氏を新会長に任命したのだけれども、重要な政治問題についてNHKは政府に反抗すべきではないと示唆したこの新会長の発言に慄然とさせられた向きは少なくないのだから(★)。・・・


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Mr Abe’s government is seeking to narrow the scope of public debate. Beijing is making his task easier by its constant hectoring of Japan. A recent Pew poll found that only 5 per cent of Japanese had a positive opinion of China. But Mr Abe’s manipulation of events to further his agenda is dangerous in a country where the public is, if anything, too passive, not too boisterous.

安倍政権は広汎な国民間の議論の余地を狭めようとしている。而して、支那が常套する日本叩きの動きが安倍首相のこの試みを後押しする形になっているのだ。Pew社の最近の世論調査では、支那に対して好印象を持っている日本人は5%しかいないのだから。自身の民族主義的な政策課題の推進に向けて現下の事態を処理する安倍首相の手練手管は、しかし、口角沫を飛ばしての喧々諤々の議論を好むとは言えない、どちらかと言えば受け身の傾向の強い国民性の国では危険である。


The Japanese people have much to discuss. It may be reasonable, for example, to change Japan’s interpretation of “collective self-defence” such that its military could come to allies’ aid. It is even legitimate to debate the possibility of amending article nine of Japan’s constitution, which - virtually alone among nations - forbids it from the right to wage war. The inconvenient truth for Mr Abe, however, is that a majority of Japanese are strong supporters of Japan’s postwar pacifism and significantly less conservative than the prime minister. Mr Abe’s plan seems to be to shift opinion in his direction through the steady erosion of debate. China’s claim that Mr Abe is a danger to Japan’s neighbours is mostly nonsense. But he could be a danger to Japan itself. It would be a tragedy if the threat of China were used as an excuse to mount an attack on Japan’s relatively open society.

日本の国民はもっと議論してしかるべきなのだ。例えば、その軍隊が同盟国を支援できるように「集団的自衛権」に関する日本政府の解釈を変更することは合理的なのかもしれない。あるいはまた、その条項が実質的には世界で唯一自国の交戦権を否定しているのだけれども、日本の憲法9条を改正することの是非を議論することも毫も抑制されるべきではない当然のことだろう。安倍首相にとっての不都合な真実は、しかし、日本国民の多数派は日本の戦後の非戦主義の強固な支持者であり、そして、明らかに日本国の現在の首相ほどには保守的ではないこと。而して、安倍首相の狙いは国民間の議論を逓減させることによって世論を自身の思う方向に誘導しようとするもののように見える。もちろん、安倍首相は日本の近隣諸国にとって危険な存在とする支那の主張は白黒はっきり言えばほとんど出鱈目ではある。けれども、安倍首相は日本自体にとって危険な存在になるのではないか。いずれにせよ、支那による脅しが、もし、日本の比較的開かれた社会に対する攻撃の理由に使われることになれば、それは悲劇だろう。


★関連記事
・NHKの「政治的中立」と首相の人事権(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/62207787.html


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テーマ : 政治・時事問題
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KABU

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大東亜戦争終結後のこの社会で跳梁跋扈し猖獗を極めた戦後民主主義の批判を果敢に推進するための
yahoo版のミラーブログ。
2007年9月10日以降の新記事を随時、厳選した過去の自薦稿を漸次アップロードしていきます♪

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