「近いうちに解散総選挙」の政治的意義と言語的無意味

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社会保障・税一体改革関連法案の早期成立、および、同法案が成立した場合「近いうち」に衆議院を解散して総選挙を行うことが合意された昨日の自民党・公明党・民主党の三党首会談を受けて、「近いうち」というのは一体いつ頃のことなのかを巡る憶測が国会の内外で喧しいようです。

蓋し、この憶測は言語学的には無意味なものであり、他方、政治的にはこの「近いうち」が意味を持つかどうかは今後の政局の磁場の中で決まる。いずれにせよ、自民党のコア支持者から見れば(小泉純一郎総理に喝を入れられたにせよ)「近いうち」の4文字を民主党政権から引き出したのは谷垣総裁の手柄であろう。けれども、自民党のコア支持者の立場からは、この「近いうち」の4文字が孕む政治的意義を最大限に引き出そうとすれば今秋の自民党総裁選挙を通して新しい総裁を選び「選挙の顔」といったお飾りなどではなくその新総裁を盛りたてて来るべき総選挙と来年の参議院選挙で自民党は中原に鹿を逐うべきなの、鴨。私はそう考えます。


▼首相「近いうちに信を問う」 民自公党首、会談で合意

野田佳彦首相(民主党代表)と自民党の谷垣禎一総裁は8日夜、国会内で会談し、消費増税関連法案の今国会成立で合意した。自民党が要求した衆院解散の確約について、首相は「近いうちに国民に信を問う」ことを確認。自民党の強硬路線への転換で混迷した消費増税関連法案は10日に参院本会議で可決、成立する見通しだ。ただ、解散時期について解釈が割れるのは確実で、混乱する可能性がある。


(朝日新聞・2012年8月8日23時31分


▼解散時期「近いうち」っていつ? 広がる憶測

野田首相は9日午後、長崎市内のホテルで記者会見し、自民、公明の両党首と「近いうちに国民に信を問う」と8日に合意したことについて、「(「近いうち」とは)それ以上でもそれ以下でもない。文字通りに受けとめていただきたい」と語った。


(読売新聞・2012年8月9日13時36分


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繰り返しになりますが、「近いうち」の言語学的意味、これを先ず俎上に載せておきます。例えば、普通、ビジネスでは「折り返し電話させます」というのは15分以内のこととされますが、「近いうち」の4文字を穴の開くほど睨もうがこの5「音節=モーラ」(ち/か/い/う/ち)を1万回唱えようが、三党の党首が合意した「いつ頃までに解散総選挙を実施する」のかは誰にもわからないでしょう。

要は、「近いうち」という事象は(「身長188センチ以上の男性と身長175センチ以上の女性の集合」などとは違い、他方、「背の高い人の集合」なるものとパラレルにある事象がある集合の要素であるか否かが一義的に定まるものではありません。よって、「近いうち」という事象は)数学で言う集合の要素ではない。加之、「近いうち」という表現は、ビジネスのコンテクストにおける「折り返し電話させます」とも違い、語の普通の用法からも政界における言語使用の慣習からも1カ月なり年内なりの実時間を指示することもないだろうからです。

敷衍すれば、「近いうち」とはニュートン力学的な意味での「均一に流れる時間の帯の中のある特定の線分の長さ」を示すものではなく、例えば、今国会中、次の秋の臨時国会冒頭や会期末(≒10月上旬や年末または年初)、来年の通常国会の冒頭等々、若しくは、衆議院の定数是正法案ならびに特例公債法案の可決成立時等々、マクダガートの言う意味での「ある事象の前後関係」として観念される<時間>と親和性のある言葉なの、鴨。

畢竟、言語学的には「近いうち」の意味は(自民党と民主党の力関係や党首間の相性、若しくは、秋の臨時国会冒頭や特例公債法案の可決成立直後等々)コンテクストに依存している。更に、この「近いうち」なる表現が今回の「三党合意破棄」も辞さないという民主党政権に対する自民党の不信感の惹起、ならびに、その不信の治癒と信頼関係の修復の結果、野田首相の口から出されたものであることを鑑みるに、自ずと「近いうち」の帯びる意味の「意味のストライクゾーン」は狭まってくる。すなわち、自民党を激怒させたもの(の少なくとも一つ)は次の事柄だった由。

▼首相、来年度予算編成に意欲

野田佳彦首相は1日、民主党最大の支持団体である連合の古賀伸明会長と官邸で会談し、政権の経済成長戦略の「日本再生戦略」に関して「試金石となるのが平成25年度予算編成だ。衆院任期中の最後の予算編成なので政治主導でしっかりやるべきだ」と述べ、25年度予算編成に意欲を示した。早期の衆院解散・総選挙に否定的な考えを示したとの見方も出そうだ。


(産経新聞・2012年 8月2日7時55分


つまり、三党合意(6月15日-6月21日)の前提は、

(ⅰ)自民党の谷垣総裁にとっては「平成25年度予算編成」(2012年11月~12月)の前には解散総選挙が行われることだったことは間違いない。而して、(ⅱ)確かに「国政選挙における1票の格差是正」と「赤字国債を可能にする特例公債法案」は(白黒はっきり言えば、それを成立させなければ衆議院の解散総選挙が断行できないというマストではないにせよ)解散総選挙の前に可決成立させる方がビューティフルではあろう。逆に、(ⅲ)(今般の消費税増税とリンクしている社会福祉制度の改革を1年の期限内に議論する機関としてその権限と構成が社会保障・税一体改革関連法案に規定されている、)社会保障制度改革国民会議の本格稼働前に解散総選挙が行われ次の政権の枠組みが固まることが望ましい・・・。


要は、次の総選挙では議席増が見込め政権奪還を期す自民党は一日も早い解散総選挙を望み、逆に、次の総選挙では壊滅的敗北がほぼ確実な民主党は一日でも遅い解散総選挙を希求するという<人情>の機微は置いておくとしても、上記(ⅰ)~(ⅲ)を鑑みれば、「近いうち」とは、

(Ⅰ)来年度予算編成作業の前(遅くとも2012年11月下旬)
(Ⅱ)衆議院の定数是正法案および特例公債法案の可決成立後(早ければ今国会末9月上旬)
(Ⅲ)社会保障制度改革国民会議の本格稼働前(早ければ2012年9月下旬)


のいずれか一つがクリアされた段階。常識的には2012年の10月~11月を意味していると思います。よって、9月に自民党と民主党とも総裁・代表選挙を行い、(顔ぶれは変わらないとしても、新しい任期に入ったという意味で)新しい執行部が登場して、社会福祉制度の改革を巡るビジョンを互いに国民に披露しつつ「10月解散→11月総選挙」というのが一番素直な「近いうち」の意味なの、鴨。


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けれども、別の観点から「近いうち」に対するこの言語学的なアプローチは無意味と言える、鴨。
すなわち、

(甲)現実の民主党内の政治情勢
(乙)首相の解散権の憲法的意味


(甲)民主党の国会議員のほぼ100%が早期の解散総選挙に反対であり、彼等は一日でも遅い(可能なら来年8月の任期一杯まで遅らせた)解散総選挙を望んでいるだろうこと。尚、この点に関しては下記拙稿および下記報道をご参照いただければ嬉しいです。

・三党合意破棄-三原じゅんこ参議院議員も心を固められたの、鴨
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11321292284.html


▼党首交代なら3党合意は無効 輿石氏

民主党の輿石東幹事長は9日の記者会見で、野田佳彦首相と谷垣禎一・自民党総裁、山口那津男・公明党代表による党首会談の合意に関し、9月の民主党代表選や自民党総裁選で党首が再選されなかった場合は無効になるとの認識を示した。また、解散時期に関し「すぐ解散できる状況ではない」と述べ、今国会中の解散はないとの認識を示した。特例公債法案や衆院選挙制度改革法案について「今国会中に結論を得ないと国民の理解を得られない」と述べ、解散前の成立の必要性を強調した。


(産経新聞・2012年 8月9日16時20分

蛇足ながら解題を付しておけば、公党間の約定はたとえその総裁・代表が代わったとしても当然のようには「無効」になることはない。よって、この報道が伝えているのは、民主党内世論の「早期の解散総選挙への恐怖」に他ならない。けれども、「近いうち」の解散総選挙を野田首相が断行することはそう容易ではないことだけは確かでしょう。


(乙)「近いうち」の意味が言語学的に確定できないもう一つの契機があります。それは首相の衆議院解散権の本性に起因するもの。すなわち、憲法論的に見て、解散権が首相の専権事項であり(それが国会の同意が不要という意味での)大権である限り、首相が一度約束した解散の時期を「やーめた」と変更することさえも憲法論的には許されるということ。その場合、現実的な問題は「嘘をついた」ことに対する首相の政治責任の帰趨ですが、それさえも首相の解散権を縛るものではない。

ならば、昨日の党首会談において谷垣氏が「近い将来」を「近いうち」にと変更させ、加之、「社会保障・税一体改革関連法案の成立後」とたがをはめたのは自民党総裁としては上出来と言える。要は、たとえ、具体的に「今国会中」とか「秋の臨時国会冒頭」の解散を文書で約束させたとしても、時の首相が世論の批判を覚悟の上で、例えば、「国難山積の現在、解散の約定を守ることは国益に反する」とかなんとか言ってその約束を反故にすることを誰も止めることなどできないのですから。


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それが専権事項である限り、首相はいつでも前言撤回可能なのです。ならば、野田首相が誠実な人物であろうと太った菅直人であろうと、首相の解散の約束などは信じる方がおかしい。よって、小泉純一郎総理が自民党の現執行部に喝を入れられた如く、野党は解散総選挙近しの空気を広げ解散風を吹かすしかない。そして、この政治的マヌーバーの運用に際して谷垣氏が野田首相から引き出した「近いうち」の4文字・5音節は極めて重要なアイテムになりうるだろう。けれど、このアイテムを有効利用するその手練手管や資質について谷垣氏が自民党総裁として適任とは私には思えないのです。

б(≧◇≦)ノ ・・・よくやった、谷垣さん!
б(≧◇≦)ノ ・・・あとは後進に総裁を譲りなさい!


畢竟、谷垣氏というか谷垣氏に象徴される良くも悪くも55年体制下の「保守本流」的なリーダーでは、現下のこの国難に対処しつつ自民党の第二期長期政権の扉を開くのは無理ではないか。だから、谷垣総裁には今の時代により適合した人物に「総裁の印綬」をバトンタッチしていただいた方がよいのではないか。

いずれにせよ、三党合意の大前提は①「2009マニフェストの破綻の確認」だったのであり、要は、②遠くない将来(来年度予算編成作業の前・衆議院の定数是正法案および特例公債法案の可決成立後・社会保障制度改革国民会議の本格稼働前)の衆議院の解散であったことを看過してなされる「自民党の強硬路線への転換で混迷した消費増税関連法案」(朝日新聞)等の自民党批判は片腹痛いの類でしょう。

而して、谷垣氏がその批判に対する反論を国民・有権者に適切に訴えたとは到底思えず、蓋し、この1点だけでも谷垣氏は闘う野党の領袖にはなり得ないと判断せざるを得ないのです。

再々になりますけれども、憲法論的には首相は「解散の約束」を反故にしても許される。けれども、解散の約定を反故にされることを覚悟の上で、自民党は都度、三党合意の大前提が①「2009マニフェストの破綻の確認」であり、②近いうちの解散であることを世間に知らしめ民主党を更に「遠心分離」させるべきである。この主張のどこが「政策より政局」なのかとも。自民党は正面からそう世論に説明すべきである。而して、次の総裁にその説明作業を私は切に期待しています。


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