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NPOによる第2センター試験:SAT的なものとACT的なものの交錯

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平成17年6月8日の新聞各紙の紙面に「第2のセンター試験登場 NPOが参入表明」(朝日)、「NPOが統一学力試験、面接重視の大学入試に活用」(読売)、「大学入試向け新試験 10月に28都道府県で実施 NPO法人」(産経)という記事が掲載されていました。

この「第2のセンター試験」についてはある大学の入試課で働いている知人から数週間前に問い合わせをいただいており私には既知のことでした。志願者数約57万人を擁して迎え撃つ本家センター試験に対して、今年度は1万人、将来的には10万人の受験者数を目指す第2のセンター試験が旗揚げされる、と。この第2のセンター試験「全国統一学力判定試験」の特徴は大体次の通りらしい。

・主催団体がNPOであること

「文科省大学入試室は「センター試験は、各大学が共同で実施するもので、外部の試験結果を活用するケースとは違う。試験の中身が活用大学にとって有効で、公正が担保されていることが重要」としている」(読売)

・試験内容が現行のセンター試験より簡単であること 
・つまり、選抜を主な目的とはしない試験内容であること

「新しい試験は、現行のセンター試験より出題範囲を限定し、基礎的な学習内容の理解度を問う内容になっている」(産経) 「大学入試センター試験より問題の難易度を低く設定し、基礎学力の定着度を判定するのが狙い。近年は大学生の学力低下も指摘されており、「選抜」より「学力保証」に重点を置いた試験」(毎日)

・AO入試や推薦入試と連動して利用しやすいこと 

「推薦入試などの参考資料にしたいとする関東地方の6大学・短大が正式採用を決めた。今年度は最終的に30~50校の利用を見込んでいる」(朝日) 「第2の「大学入試センター試験」として、5年後には約10万人の利用を目指しており、首都圏の5大学(1短大含む)が推薦入試などの合否判定などに活用する見通し」(読売)


◆SATとACTの比較から第2センター試験にコメントした私信
上に書いた大学の入試課で働いている知人への返答の要旨は以下の通りです。

>JKさん

お問合せにつきコメントします。ただ、これらの質問程度ならサイトで調べた方が正確な情報を入手できると思います。よって、私のコメントなどは資料の一つと思って、必ず原資料にあたってください。また、『ビッグ★テスト』(ニコラス・レマン、早川書房、2001年12月。できればその原著、”The Big Test: The Secret History of the American Meritocracy”1999)はSATとACTを考える上での(その記述が間違っている箇所も含め)必読文献です。原資料が確認できるサイト等のURLは次の通り、為念。

SAT

ACT

・志望者選抜におけるテストの来歴素描とアメリカの現状
The SAT Revolution:The new test spells the end of IQ --- and big changes for American education” by Julian E. Barnes
 

①実施母体:アメリカ連邦政府が実施しているのか? 

両方とも日本で言えば財団法人(公益法人)が実施しています。SATは少し複雑で財団法人のThe College Boardが胴元で、これまた財団法人のEducational Testing Service(ETS)が問題作成を行っています。尚、ETSはTOEICとかTOEFLも制作・実施している団体です。

②年間の受験者数は? 

昨年で、SATは220万人、ACTは120万人。センター試験が約60万人として各々、センター試験の3.6倍と2.0倍;日米の18歳人口比を考えても両試験を併せたマーケットの規模は日本の約3倍といったところです。日本の私立大学が置かれている社会的の状況(幻想としてさえエリート教育や高度な専門教育機関ではなくなっているという状況)が漸次アメリカの大多数の大学と同じになっている現状を鑑みれば、第2のセンター試験の企画は必ずしも「博打」ではないでしょうね。

③アメリカ国内での評価はどうなのか? 
 受験生、大学はSATとACTのどちらを信頼しているのか? 

テスト自体の品質(問題内容・スコア数値と受験者の適性の関連)はACTの方がSATよりも評価はむしろ高いです。これはアメリカの大学のアドミッションオフィサーの間では伝統的評価です。

ただ、これまた伝統的にACTは中西部と南部の諸州で実施されてきたテストであり、全国区のSAT に比べれば受験者数は少ない。要は、品質は優っているのに商いで敗れたマッキントッシュのOSとかビデオのβ方式と同じかな。やっぱ、受験者の多いテストの方が大学にとっても使い勝手がよいし、受験者も自分の成績をより客観的に知ることができる。でもって、今年の受験者が多いから来年も受験者が多くなる、そんな感じですよ。しかし、入学審査の資料としてはACTも全米の大学が受け付けますから、両者の間に「社会的な評価」の差はないです。少し細かい話をすると・・・。

アメリカには中学や高校の教科内容と水準を共通に保つための拘束力のある「学習指導要領」的なものはない。土台、アメリカ憲法から言っても、連邦政府には「教育の内容と水準」を決める権限はありません。そうなると、Essay やRecommendation(志望理由を書いた小論文や推薦状)は置いておくとしても、各高校から出されるTranscript(成績証明書)で合否を決めると不公平がでかねない。また、到底、授業についていけない者が入学してしまう。

まあ、その子自身は自己責任でもあり退学にすればいいのですが、その子の代わりに「他の一人」が排除されたわけだし、その子の入学から退学、次の進路に進むまでのケアに関わる機会費用を含む社会的資源の損失は無視できない。でも、各大学が個々に出願者の適性や学力を測定するとなるとその労力は大変だ! SAT やACTなりが必要とされる遠因がここにあるのです。

実は、SATが登場する前は文字通り知能テスト(あのIQテストです!)が広く選抜試験として利用されていた。大学側にかかる問題作成と採点の負荷はそう大きくなく、かつ、入学志望者の(何らかの)能力を共通に測るという目的ではSAT やACTと同じなわけです。

では、何故、IQテストに替わってSAT やACTが使われるようになったか? それは、IQテストが(特に、言語を使ったIQテストは)入学志望者の「能力ではなく裕福さの判定になってしまっている」という差別反対の主張が大きいです。内容の点でも授業料の上でも高い教育を受けてきたWAPS家庭出身者は、IQテストに対する訓練を日常的に行っており(IQテスト問題に作成者が無意識に混入するアメリカの支配的な文化に彼等は日頃から馴染んでおり)、マイノリティーや貧困家庭出身の志願者より無意味に有利である、とかの主張が全米からIQテストを一掃した。そして、現在、適性試験たるSATに対してもこれと同じような批判が投げつけられています。

当初、SATは<受験者の適性>を見るだけのテストであり(後になって、各科目のテストも登場)、それに比べてACTは最初から<各科目の基礎知識>を見る:高校における学習の成果を測定することを目的としたテストでした(要は、SATは aptitude testでありACTはachievement testだった。そして、これらの違いは本当の顧客である大学入学課と高校の教務課のニーズの差によるものだったと言われています)。しかし、SATが科目のテスト(SAT?)を導入して以来この点でもSAT とACTの差は縮まりました。

尚、この観点からは、日本のセンター試験の前身である「共通一次はSATをモデルにした」と言われますが、それはテストの実施やそのスコアの使い方についてであり、センター試験も今度の第2のセンター試験もachievement testとしてACT的だと言うべきです。


④それぞれ何点くらい受験者は取るのか? 

SATⅡは除きます。また、SATにはマークシートテスト以外にも作文とかの補足資料的な点数もでます。しかし、基本的には、SATは算数・国語が各(800-200)の偏差値表示。ACTはオーバーオールで(1-36)の偏差値表示。そして、例えば、ハーバードに入学したいならSATで(750・750)、ACTなら(32)以上が必要です。ちなみに、受験者全体の中央値はSATで(500±25)、ACTでは(21±1)くらいです。 コメントはこんな所。このメールが貴殿と貴大学に何か参考になればうれしいです。

ushighschool1



◆SAT的なものとACT的なものの交錯
最後に、英米留学の専門家の立場から、「全国統一学力判定試験」についてコメントしておきます。ポイントは、現行のセンター試験と第2のセンター試験「全国統一学力判定試験」の差異はSAT的なものとACT的なものの違いにパラレルかどうか、そして、「全国統一学力判定試験」は成功するかどうかです。

上のメールでも言ったように、センター試験も第2のセンター試験もそのテスト内容はACT的です。否、「学力保証」という「適性の判定」を目指す限り、後者は前者よりも機能面ではSATにより近いと言うべきかもしれません。皮肉な話ですね。SATをモデルにしたセンター試験がよりACT的であり、ACTのビジネス的成功に鼓舞されたであろう第2センター試験がSAT的なのですから。

しかし、第2のセンター試験が、たとえどんなに「問題の難易度を低く設定し、基礎学力の定着度を判定する「選抜」より「学力保証」に重点を置いた試験」であろうとしても、あらゆる数値化されたテスト結果は「選抜」に使用可能です。簡単な話。体重や身長だって、(数値化する限り)美人の度合いだって選抜テストとして使用可能でしょうから。

よって、「全国統一学力判定試験」が「選抜」か「学力保証」かは(センター試験との差別化に成功し生き残れるかどうかは)、そのテスト内容によってではなくテストの使い方によって決定されるでしょう。包丁が「凶器」かどうか、自衛隊が「憲法が否定する軍隊」かどうかは、その物事自体をどれだけ注意深く観察しても解答できず、包丁や自衛隊の運用によって定まるのと同じです。そして、第2のセンター試験が成功する可能性は、それを選択する方が有利な大学が多いかどうかにかかっているでしょう。多くの大学が、建前としてさえ高度な専門教育機関ではなくなりつつある現状を鑑みればその成功の可能性は十分にあると思います。


(2005年6月11日:yahoo版にアップロード)

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