United States of America は「合衆国」か「合州国」か

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>United States of America は「合衆国」か「合州国」か?
 
最近、アメリカは「合衆国」ではなく「合州国」と呼ぶべきだという主張を目にしました。はるか昔、あの本多勝一氏が『アメリカ合州国』(朝日新聞・1981年)を上梓してから、翻訳と外交史・アメリカ研究の専門家を巻き込んで、やはりアメリカは「合衆国」と記すべきだと。そういう結論がでていたと思うのですが、その常識に挑戦する保立道久氏の勇気ある発言。これです。

・アメリカは「合衆国」ではなく、やはり「合州国」が正しい
http://hotatelog.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-e79e.html
 
本多氏の主張はシンプル。要は、アメリカはしばしばそういわれるような「多様な人種や民族が渾然一体とまじりあう人種の坩堝:melting pot」どころか、「多様な人種や民族が確かにその個性を維持しつつも同じ<アメリカ国民>として共存するサラダボールやオーケストラ:salad bowl or orchestra」でもない、多様な人種と民族が各々孤立しながら存在する、多層な社会階層と格差凄まじい分断した社会であり国である。ならば、そんなアメリカが「大衆が和合」するという意味での「合衆国」などではありえず、単に地域行政機構としての州が共通の利益の維持のために寄り集まった「合州国」にすぎない。土台、
 
>United States of America
 
を直訳すれば「アメリカ合州国」としか訳せないでしょうが、というもの。しかし、これは齊藤毅『明治のことば――東から西への架け橋』を持ち出すまでもなく、「合衆国」の訳語は支那語に熟達した清代の通訳官がUnited Statesの直訳として案出したものであって、而して、その語義は「独立した自治権を持った各邦が一致協力して経営する連合国家を形成した経緯」を表すもの。よって、アメリカ建国時に--United States of Americaの建国によって「邦」が「州」にその性格を変える際に--「United States of America」の語義もまた再定義されたとするならば、「合衆」を「人種や民族が渾然一体と溶け合って一つの社会を築いている」とする本多氏の解釈自体が語源を無視した誤りなのです。
 
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さて、もちろん、保立道久氏はこのような本多説が失速した経緯をご存じの上であらたに「アメリカは「合衆国」ではなく、やはり「合州国」が正しい」と述べておられるのだと思います。而して、その根拠は、--有名なアメリカ史家の故Shelby Footeが夙にそう力説していた如く-- アメリカでは南北戦争終了までは「United States of America」は複数形と考えられていたけれど、実質的に、アメリカが一つの国民国家になった南北戦争以降それは単数形であらわされるようになった。ならば、少なくとも、建国期に遡る「United States of America」の語義は単数形の「合衆国」ではなく「合州国」と取るのが正しいのではないかというもの。アメリカ社会に広がる格差や差別や分断のことは一応捨象するとして保立さんの立論の根拠はこの点に尽きていると思います。
 
けれどね、これShelby Foote大先生の勇み足なんですよね。
詳しくはこの記事(↓)を読んでいただきたいのですが、
 
 
①事実に反する
南北戦争の前後にかかわらず、「United States of America」はコンテクストによって単数形にも複数形にも使われてきたし、なにより、現在でも複数形の用例はそうまれではないということ
 
②「複数形→単数形」の、しかし、大きな流れとしての変遷は米語の変化の一斑ということ
英語では現在でも「多くの要素をその構成要素として含む集合名詞」は複数で表すことが普通なのに対して、アメリカ英語では20世紀初頭を境に、--the House of Representatives, the Senate, and "Congress 等々と同様に--それを単数形で受ける傾向が顕著になった。而して、「United States of America」もその一例にすぎず、アメリカ建国時にこの語彙が「合州国」であったという理由にはならないということ
 
③アメリカはW半主権国家でありその経緯を表すには「合衆国」が適切
このブログでもしばしば書いていることですけれども、アメリカは「州=半主権国家」が集い形成する「連邦=半主権国家」である--すなわち、「ポリスパワー:州住民の福祉を増進させ、その前提となる社会の安寧秩序を維持する権限」を独占する州政府と、他方、外交・安全保障および各州間の共通利害の調整権限を独占する連邦政府が各々統治するところの--W半主権国家ユニオンでありネーションなのですから。アメリカ国民はある州+DCの市民であると同時に間違いなく全員もれなくUnited States of America の国民でもあるのです。ならば、アメリカは〈アメリカ合衆国〉なのです
 
 
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敷衍します。畢竟、アフリカ系アメリカ人の方々はもちろん多様な人種と民族的バックグランドを帯びる移民がつくった国、--空間的にこそ移動しなかったものの「体制の変革=時代の変遷」を経験した、否、蒙ったという意味では、ある意味では、ネーティブアメリカンの人々も含めて--その個々の国民のルーツは移民であるにせよ、しかし、現在の国民やその政府がアメリカ人であり主権国家アメリカであることは動かない。再度記しますが、蓋し、アメリカがサラダボールやオーケストラなのか、あるいは、メルティングポットなのかというアメリカ社会の文化論議とは別に、アメリカ合衆国は、
 
・キリスト教(メリーランドのカトリックを含め)の各会派の人々が
・自分の会派の信仰を奉じ実践できる各会派のコミュニティーを
・自由に形成でき、他の会派のコミュニティーと共存できる<新天地>
 
として(確かに、旧大陸にルーツを持ってはいる)移民によってつくられた国である。嘘でも本当でもこの、①キリスト教、②会派ごとの自立的なコミュニティーの自由な形成、③それらの会派コミュニティーの共存が建国の理念なのです。ならば、これらの理念と無関係な単なる多様で多層な<裸の移民>がアメリカをつくった、だから、アメリカは「合州国」と呼ぶべきだなどは、リベラル派によるアメリカ理解の無知か詐術に等しい。
 
まして、アメリカは英国(スコットランドを含む)とアイルランド、そして、ドイツ系、および、北欧系の移民が創ったプロテスタント--および、プロテスタントと共存できるタイプのカトリック--の入植者がその基盤を形成したかなり文化的にも特徴のある政治社会。而して、19世紀末からのイタリア系と東欧系、20世紀のアジア系とヒスパニック系の新移民と新々移民もまた、そのアメリカの基盤的エートスと社会秩序を受諾する限り<アメリカ人>であることを--南部の敬虔なバプティスト等々のキリスト教徒であるアフリカ系の市民を含む--アメリカ国民から認められてきた。すなわち、アメリカは、格差が広がる分断線が社会のあちこちに走る多様で多層な移民の国ではあるがそのことはアメリカが「合衆国」であることとは豪も矛盾しない。と、そう私は考えます。

・宗教と憲法--アメリカ大統領選の背景とアメリカ建国の風景
http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/3a1242727550e8e31a9133aa154f11bf

・トランプを携えて日本再生―We also make Japan great again!
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/64689a762ef92844d91a75a1df495fe4
 
・アメリカ大統領選挙に見る「United State」あるいは「保守主義の牙城」
http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11136206113.html

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