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映画『ベアテの贈りもの』の新聞広告を見て考えた

macarthur



今月30日から東京は神田神保町の岩波ホールで、映画『ベアテの贈りもの』(藤原智子監督)のロードショーが始まるらしい。昨日の朝日新聞夕刊に広告が載っていました。ベアテ・シロタ・ゴードンさんは22歳の時、大東亜戦争後のGHQ職員として日本国憲法の制定過程にかかわった方。もちろん、所謂マッカーサー草案の起草にかかわったのですが、日本のフェミニストの間では、現行憲法の第14条と24条に女性の権利が盛り込まれたのはベアテのお蔭でありと感謝する向きも少なくない。そう、日本の反日勢力の中では結構な有名人でアメリカでは全くの無名の人物。

よって、と言いますか。『ベアテの贈りもの』;“The Gift from Beate”は当然のことながらアメリカ映画ではなく日本映画。サブタイトルというか広告に書かれた言葉がこれまた強烈でした。何の法律の資格も持たない22歳のGHQ事務職員が、敗れたりとは言え一国の憲法草案の起草に関与したことのおかしさを思うとき、この広告文コピーの凄まじさが嫌でも目につきました。そう長くないので全文引用しておきましよう。

◆「私は女性の幸福を憲法に書いた」
◆平和のために、役立つものが必要です。女性が幸福にならなければ、世界は平和にはなりません。 
・ベアテ・シロタ・ゴードン
◆ベアテ・シロタは、日本国憲法に女性の人権と男女平等を加えた。本作は、音楽家の父、レオ・シロタと日本との深い絆にふれつつ、戦後、日本女性がどのように地位を向上させていったか、今日までの歩みを描く。(以上引用終了)


凄いね。何度読み返しても凄いと思います。この映画を製作した人達や(=「ベアテの贈りもの」製作委員会&株式会社日本映画新社や)、興行を引き受けた岩波書店の担当者は、ベアテが贈りものをしたこと自体のいかがわしさを何も感じなかったのだろうか。私はそれが不思議でなりません。

絵も見ずに画家を語るべきではなく。曲を聞かずに指揮者の評価を下すべきではない。同様に、映画の評価はそれを見た上で行うべきだ。それが、作品評論の礼儀だし最低限のマナーだと私は思っています(だから、扶桑社の『新しい歴史教科書』を読まないでそれを批判する「進歩的文化人風の評論家」が何人もおられますが、彼等のコメントは批判としての説得力もないだけでなく、その批判者の人間性も低劣なのです)。実際、藤原智子さんの今までの監督作品にある一貫した傾向があろうとも、『ベアテの贈りもの』もまたそうだとは言えないし、傾向性は同じでも優れた作品が仕上がっている可能性もなくはない。だから、上で述べた、『ベアテの贈りもの』への批判は、あくまでも、平成17年4月15日の朝日新聞夕刊(東京本社版)第8面に掲載された、全5段五分の一の広告に対する私の感想に過ぎません。

それにしても。それにしてもこの広告は製作側と興行側の凄まじい憲法への無知をさらけ出してはいないか。正直、そう思わずにはいられませんでした。ベアテさんが起草したのはマッカーサー草案にすぎず現行憲法自体ではないというテクニカルなポイントは置いておくとして、私の批判のポイントは次の2点。(1)憲法に条文を加えたからといって自動的にその条文の通りに社会が変わるわけではないということ。そして、(2)何をもって「女性の幸福」と考えるかなどは、正に、その憲法を受け入れる社会が決めることだということ。敷衍します。

beast


(1)社会を変える憲法の力?
19世紀は「憲法の世紀」と呼ばれています。より正確には、これは、「憲法典の世紀」と呼ぶべきなのですが、(英国のように不文法の国をも含み、人権と権力の分立を内容とする「近代的意味の憲法」の成立が)英国に遅れること200年、フランスとアメリカ合衆国に遅れること100年にして多くの国民国家が欧州を中心に誕生し、それに伴いおびただしい成文憲法が19世紀に成立した経緯を「19世紀は憲法の世紀」という言葉は表現しています。もちろん、我が大日本帝国憲法もその19世紀に成立した憲法の一つ。といいますか、19世紀的憲法の最高傑作の一つと言ってよいと思います。

しかし、誕生した憲法典の数から言えば、20世紀、否、20世紀の50年代から70年代にかけての四半世紀が人類史でも最多の成文憲法が成立した時代でしょうもちろん、それは、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの新進の独立国の誕生ラッシュにともなうものです。さて、私はここで何を言いたいのか。それは、20世紀の半ば以降に成立した夥しい憲法典の中で、その国の政治のあり方や社会のあり方を実際に定める<規範力>を持つ憲法典がこの地球上にどれくらいあるか考えてみようということ。そうすれば、我が現行憲法が持つ規範力の強さは極めて例外的な部類に属することが了解できると思うのです。そう、現行憲法の規範力は間違いなくこの道の老舗たる英米仏のそれに匹敵する、と。

この事実から目を逸らさない限り後の話しは簡単。憲法典の規範力の度合いを決めるものは憲法典の字句自体ではない。それを決めるものはその憲法典を受け入れる社会の歴史的と文化的な特殊性だということです。(三国人の乱暴狼藉が吹き荒れたにせよ)大東亜戦争直後の日本の治安と秩序の良さ、あるいは、戦後11年にして「最早戦後ではない」(1956年の『経済白書』)と言われる驚異的な経済復興をなしとげた日本人のパフォーマンスを想起するとき、このことを多くの方は素直に了解できるのではないでしょうか。

ならば、もし、現行憲法の14条と24条が「女性の人権と男女平等」を実現したとするならば、実は、もともと日本の社会には(表面的な儒教思想の薄皮のすぐ下には)、女性を尊敬し女性を男性と同等な存在と考える社会意識が脈々と流れていたということなのだと思います。蓋し、平塚らいてうの言うように、この国では「原始、女性は太陽であった」かどうかはわかりませんが、少なくとも、戦前の日本の社会が「女性の人権と男女平等」がそれなりに実現していた国であることは間違いないと思います。

(2)22歳のベアテお嬢さん、何が幸福かを外国人に教えてもらう筋合いはないんじゃないかい? 
人が、何をもって幸福な状態と感じるか/考えるかはその社会のメンバーが(蓄積された文化伝統の中で彫琢を加えられた美意識が)決めることです。外国の22歳の小娘さんが、自分の常識を他国の国民に教え諭すなどということは無礼でもあり滑稽です。22歳のベアテお嬢さんのケースを一般化することが許されるならば、そのような無礼で滑稽な事態をGHQは日本人に働いた。而して、戦前を暗黒の社会として染め上げ、大東亜戦争の責任を主に日本にありとする洗脳プロジェクトたる、GHQのWGIP(War Guilt Information Program)などはその傲岸不遜の極地と言っていのではないでしょうか。

ならば、この映画のタイトル『ベアテの贈りもの』(“The Gift from Beate”)は『野獣達からの贈りもの』(“The Gift from Beasts”)に変えるべきではないか。私はそう考えます。私も連休中に足を運ぶ予定ではありますが、いずれにせよ、一人でも多くの方が神保町の岩波ホールに足を運ばれ、各自、自分の目と耳と脳髄でこの映画を鑑賞されればいいな、と思っています。


当日券:1,800円
開演:11:30、14:00、18:30(土日祝日は17:00)
連絡先:岩波ホール:03-3262-5252




(2005年4月16日:yahoo版にアップロード)

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