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迷わずに成仏せよ、朝日新聞のへなちょこ護憲社説!

ooeyama
【酒呑童子】


今日、平成17年5月3日・憲法記念日の朝日新聞社説「世直し気分と歴史の重さ 改憲論議を考える」を批判したいと思います。この社説、何と、あの朝日新聞が「憲法を改めることで暮らしよい世の中になり、日本が国際的にも尊敬されるなら拒む理由はない」と言い切ったもの。築地に籠る彼等にとってこれは清水の舞台から飛び降りるような、文字通り、<死の跳躍>ものの社説なのかもしれない。恐らく、次の『週刊金曜日』の投書欄あたりには「朝日お前もか! もう期待しないと思っていたが、本当にもう期待しないかんね!」等の悲憤慷慨、切々たる読者の声が寄せられることでしょう。

しかし、それは清水の舞台から飛び降りるどころか大江山に籠る骨がらみの護憲社説にすぎない。蓋し、それは沙翁『ベニスの商人』でかわいそうなシャイロックに対して裁判官扮するポーシャが「お前の訴えは認められた。この男(被告)の胸の肉を切り取るがよい。ただし、証文には「肉」としか書かれていないのだから、一滴の血たりとて流してはならぬ。また、証文には「肉」としか書かれていないのだからこの男の生命を奪ってはならない」と言ったに等しい詭弁に満ちた社説。それは、現在の改憲動向を斜に構えて揶揄し、かつ、自分達が勝手に設定した改憲の前提や条件を、それがさも世界の常識でもあるかのごとく居丈高に主張する姑息で狡猾な主張に他ならない。そう私には思えました。

正直いって、それは批判すべき内容は何もない<屁>のような<スカ>のようなへなちょこ社説。ある意味、大東亜戦争後のこの社会で跳梁跋扈し猖獗を極めた戦後民主主義からする護憲論の最終形態の一つかもしれない。ならば、きちんとこの社説を批判してあげて(棺桶を用意してあげて)、迷わずに成仏していただくようにするのが改憲論側の責務でしょう。実際、思想の世界では<死に馬に蹴られる>ような事態も少なくない。ここで<屁>だの<スカ>だのといって嗤っているだけでは、この<死に馬>が憲法改正問題にいまだイノセントな若い世代に憑依して戦後民主主義的な護憲論が魔界転生する可能もなくはないのです。大江山の酒呑童子退治を行う所以です。以下引用開始。

「あなたは改憲ですか、護憲ですか」と街頭インタビューで聞かれた30代の男性は「どっちかって言うと改憲な感じです」と答えた。憲法をゼミで学ぶ大学生はこう言った。「護憲ってダサいし、就職にも不利っぽいかも」

憲法といえば、かつては思想や民主主義をめぐる路線がぶつかりあう硬いテーマだった。ところが最近は気分やスタイルの問題みたいな雰囲気が漂う。(中略)

憲法の出発点でもあった戦争の記憶は薄れつつある。いま戦争といえばイラクであり、北朝鮮の核・ミサイル問題や拉致問題も頭に浮かぶ。潜水艦が石垣島沖を横切ったりする中国の大国化も気にかかる。こうした「いま」の出来事が、平和主義を唱えるままでいいのか、と人々の気持ちを揺らしているのだろう。加えて、90年代の「失われた10年」に象徴されるような閉塞(へいそく)状況を打破したいという空気もある。(中略)「世直し」を求める気分に改憲はすっぽりとはまる。「改憲」イコール「改革」という図式の中では「護憲」は「守旧」となりやすく、どうも分が悪い。

しかし、では憲法のどこをどう変えるのかとなると、議論はたちまち拡散する。軍隊を持つべきだという論もあれば、「権利意識ばかりが幅をきかせて」と戦後社会のありようへの腹立ちをぶつける論、愛国心、プライバシー……。それらが重なり合って、憲法改正の賛否を問えば「賛成」が過半数を超える。焦点が絞られないまま、漠とした世直し気分が改憲論を押し上げている。

だが、このムードは現実の改憲に結びつくのだろうか。(中略)国会議員が永田町で熱くなっているほど世論の関心は高くない。朝日新聞の調査では、憲法調査会のことを「知らない」人が71%だ。(中略)焦点の9条改正には慎重な声が多い。(中略)

もうひとつの出来事は、この春、中国や韓国で噴き出した激しい日本批判だ。それぞれに誤解や国内事情があるにせよ、底流にはかつて日本が仕掛けた戦争や植民地支配に対する責任と反省への問いかけがあるのは確かだ。

9条改正論の中には、いまの自衛隊をきちんと憲法に位置づけ、海外での活動にもはっきりと根拠を与えるべきだという今日的な主張もある。しかし、9条の平和主義は、過去の過ちは繰り返さないという日本の不戦の証しでもある。これがあるからこそ、和解への取り組みが不十分でもなんとかやってこられた。もし9条を変えるのなら、その前にきちんとしておくべきことがあるのではないか。

旧西ドイツは戦後10年ほどの間に憲法を改め、再軍備に踏み切った。東西冷戦の最前線に位置し、西側陣営の圧力があってのことだが、それには徹底したナチスの断罪と隣国との和解が大前提だった。米国と仲良くやってさえいればよかった日本とは根本的に異なっていた。

ところが日本ではいま、過去を正当化しようとする議論がまかり通る。A級戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社に小泉首相は参拝を続け、それが近隣諸国の不信を招いている。その一方で9条まで変える、まして堂々と軍隊を持つとなれば、さらに不信をふくらませかねない。自衛隊は一流の装備を持ちながら海外ではきわめて抑制的に振る舞い、武力行使はしない。愚直なほどに原則にこだわり続ける姿勢が、国際社会における日本の「平和ブランド」をつくってきた。戦後日本が築いた資産のひとつだろう。9条を変えるなら、それを捨て去るのかどうかの議論が欠かせない。

憲法を改めることで暮らしよい世の中になり、日本が国際的にも尊敬されるなら拒む理由はない。政治に求められるのは、単なる世直しムードを超えて、改憲することの利害得失を大きな視野で見極めることである。(以上引用終了)


私はこの社説の理路をこう理解しました。

◆社説論旨
A:改憲は気分にすぎずそう現実性のあるものではない
(1)現在は「漠とした世直し気分が改憲論を押し上げている」状況がある
(2)「漠とした世直し気分」の源は戦争体験の風化と現状の安全保障への危惧であろう
(3)「漠とした世直し気分」の源はバブル崩壊後のこの社会の閉塞感であろう
(4)しかし、どこをどう変えるのかについての国民的コンセンサスは存在しない
(5)改憲への「世論の関心は高くない」
(6)9条の改正の条件は日本の戦争責任を巡る近隣諸国との<和解>である
B:9条を改正して自衛隊とその海外での活動を正当化することには慎重であるべきだ
(6)「平和ブランド」を失うことの対近隣諸国関係での損得をきちんと議論すべきだ
(7)「平和ブランド」を失うことの国際政治総体での損得をきちんと議論すべきだ
C:結語
(8)「憲法を改める」ことのメリットが大きければ改憲を拒む理由はない
(9)「単なる世直しムードを超えて、改憲することの利害得失」を見極めるべきだ


◆社説批判
朝日新聞の社説子は自分達が勝手に想定した「憲法改正のあるべき状況」に自らを拘束させてはいないでしょうか。もしそうなら、このような事態を「物神性」というのですが(=要は、自分達が作ったトーテムポールに自分達の行動が左右されるような事態)、少なくとも、彼等は、全国民とはいわないが国民の多数が明確な目的と意図をもって憲法のどの条文を改正するかを自覚しており、それに向けて甲論乙駁するような状況が「改憲の状況」と勝手に思い込んでいることは確かだと思います。而して、論旨の(A)の(1)~(5)を読む限り、現在はとてもそんな改憲状況にはなく単なる「漠とした世直し気分」が改憲論議に結びついているだけだ、と。よって、到底改憲などできはしないとこの社説は結論づけているのではないかと思います。

護憲派の最後の論客、東京大学の長谷部恭男さんの言葉を借りれば、しかし、「しょせんは憲法も法律であり、その解釈適用は、最後は専門の法律家の手に委ねられる」『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書・2004年4月、173-174頁)なのです。ならば、国民の多数に憲法のどの条項を何のためにどう変えるかの具体的な知識と明確な意識を改正案もできていない段階で期待する方が過大なクレームというものでしょう。いずれにせよ、国民投票法ができ憲法96条に従い国民の前に改正案が提示された後に、国民の過半数がそれに賛成すれば改憲が行われる。それだけの話です。よって、(今の段階だけでなく国民投票の際においても)改憲への「世論の関心が高くない」なら改憲はできないなどということはないのです。


更に、朝日新聞はこれまた自分達が勝手に作った<憲法改正の条件または前提>を持ち出しています。論旨の(A)の(6)のこと。多くは論じますまい。端的に言って、憲法改正という最高度の主権性を帯びる法的な行為になにゆえに近隣諸国との和解なりのマターが問題になるというのでしょうか。

日本は中韓との間で戦争処理もすませ戦後責任も(国家の責任を断乎認めず、一切の責任を「ナチス」に押し付けた。しかも、最近までは基本的には「ユダヤ人」に対する戦争犯罪以外は断乎認めてこなかったドイツなどの姑息なやり方ではなく)完全に果たしている。「中韓は決してそうは思っていない」等というのは政治の問題ではありえますけれど、我が国は政治の場においても我が国の主張を貫けばよいだけのことなのです。ならば、中韓との和解なるものについて、「もし9条を変えるのなら、その前にきちんとしておくべきことがあるのではないか」とは一体どんなことをどんな根拠で社説子は述べておられるのか? 少なくとも、それが憲法改正と国際法の法理と国際政治の慣行とは無縁なことだけは確かなのです。


畢竟、この社説に流れる文芸的の語彙選択がこの社説を不明瞭にしている。正直、「隣国との和解」や「平和ブランド」等々の文学的表現で朝日新聞が何を意味させようとしているのか私には全く分からないのです。もっとも、憲法を改正するメリットとデメリットを慎重に比較考量すべきという主張(B)は間違いではないと思います。しかし、ドイツの再軍備は社説子も述べておられるように「東西冷戦の最前線に位置し、西側陣営の圧力があってのこと」。つまり、ドイツの「隣国との和解」なるものはこの「西側陣営の圧力の受容」の別の表現にすぎなかったのです。で、朝日新聞さん「和解」という言葉で何が言いたかったのですか? と、どこまでも文学的表現は社説の理解を妨げるのです。 

同様に朝日新聞に私は聞きたい。「平和ブランド」とは何ですか、「平和ブランド」の効能は何ですか、と。まさか、幾つかの国際機関で日本人が主要なポジションを占められていることとか、対人地雷兵器廃止条約で日本が(珍しく)イニシアチブを取ったことを言っているんじゃないでしょうね、と。もしそうだとすれば朝日新聞のこの「平和ブランド」なる言葉は羊頭狗肉にすぎない。

なぜならば、対人地雷兵器廃止条約は故小渕首相の個人的こだわりによって実現した特殊属人的な出来事であり、ほとんどの安全保障関連の主要な国際機関のTopのポジションは軒並み、軍隊を擁し海外派兵も辞さない国が占めているからです。要は、国連への日本の資金的な貢献の大きさから比較するならば、国際機関における日本のプレゼンスはあまりにも低いと言うべきなのです。畢竟、「平和ブランド」なるもののお蔭とは(「平和ブランド」という用語の意味が本当によくわからないのですが、)国際政治におけるみすぼらしいプレゼンスと同義と言っても過言ではないのです。いずれにせよ、「隣国との和解」や「平和ブランド」という朝日歌壇と区別のつかない曖昧な表現を社説で使うのは今後やめていただきたいと私は願うばかりです。

再言します。「憲法を改正するメリットとデメリットを比較考量すべき」という主張は般論としては正しい。けれども、そこに挙げられている2項目;(6)「平和ブランド」を失うことの対近隣諸国関係での損得;(7)「平和ブランド」を失うことの国際政治総体での損得、は9条の改憲を踏みとどまる理由には到底なっていない。他方、憲法改正には、安全保障の強化・自衛隊による国際貢献の更なる充実・日本国民の政治統合をリセットすることによる社会秩序の回復というメリットが望めるのではないでしょうか。そう私は考えています。ならば、「単なる世直しムードを超えて、改憲することの利害得失」を見極めたとしても、「憲法を改める」ことのメリットが大きいとしか思えず、よって、改憲を拒む理由もない。畢竟、朝日新聞の今日の社説を検討する限り、改憲は実行されるべきなのです。「護憲論=鬼」退治はこれにて終了。どんど晴れ。


(2005年5月3日:yahoo版にアップロード)

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