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児童殺害事件より「防犯カメラ設置」が怖いが本音の朝日新聞の「瓢箪鯰」社説

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今日、平成18年4月3日の朝日新聞社説「男児殺害 カメラだけでは防げない」を一読して朝日新聞の主張が理解できた読者はそう多くないと思います。それは、「これも言える。あれも言える。けれども、またそれも正しいだろう」式の実に取りとめのないゆるゆるの文章でしたから。

しかし、日頃から朝日新聞の社説の理路に疑いを持っており、そして、数日後か数ヵ月後にその社説が何を意味していたのかを朝日新聞の「反日キャンペーン」という形で何度も確認したことのある朝日新聞社説マニアにとっては事情は別。おそらく、そんな<朝日新聞社説同好会>のメンバーにとっては今日の社説「男児殺害 カメラだけでは防げない」に盛り込まれた朝日の主張は明瞭だった。少なくとも、同好会員を自任している私にはそうだったからです。

蓋し、今日の社説に埋め込まれたメインの主張と朝日新聞の意図は、中立を装った防犯カメラ設置反対論であり、而して、朝日新聞は川崎市の男児投げ落とし殺人事件が防犯カメラの画像を契機に解決に向かったことを見た世論が防犯カメラの設置推進支持に雪崩をうつことを恐れたのではないか。私にはそう思えるのです。以下、当該社説を引用した上で敷衍します(尚、被害者男児の氏名の伏字はKABUによるものです)。


「殺したかったから投げ落とした」。川崎市のマンションで小学3年生の××××君が転落死した事件で、41歳の男が殺害を認め、こう供述した。(中略)

逮捕された男は妻子と5人暮らしで、子ども思いだったという。3月まで精神科の病院に入院していた。失業していたとも言っている。それにしても、あまりに凶悪な犯行との落差が大きすぎる。なぜ、こんな事件を起こしたのか。動機を徹底的に解明してもらいたい。

現場のマンションは18カ所に防犯カメラを設置している。小走りで逃げる男をカメラがとらえていた。その映像が公開され、新聞に掲載されたのを見て、男が出頭した。「逃げられないと思った」と供述している。防犯カメラが事件の解決に結びついた。(中略)

防犯対策として、死角になりやすいエレベーターや自転車置き場に防犯カメラを置くところが増えている。(中略)商店街などの防犯カメラには、監視社会化になるとの批判がある。だが、共同住宅は住民の私的な場だ。みんなが合意すればカメラを設置するほうがいい。

しかし、過信は禁物だ。今回、防犯カメラは容疑者の逮捕には役立ったが、事件は防げなかった。防犯カメラがあることを知って犯行を思いとどまる者もいれば、無視するかのように犯行を重ねる者もいる。カメラをかいくぐって犯罪を犯そうという者もいるだろう。

犯罪を防ぐには、やはり住民の目と日ごろの結びつきが欠かせない。(中略)そうした日ごろの活動があれば、防犯カメラはいっそう役に立つ。(後略、以上引用終了)


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この社説を私が「ゆるゆる」とか「取りとめのない」と表現したのは、それが位相を異にする幾つかの問題を並列しているからです。実際、「何が41歳の彼をして犯罪を行わせたか」という犯行の動機や犯罪に至る犯人の心の状態の問題と「どうすれば犯罪は防げるのか」という一般的な防犯施策の問題は無関係ではないにせよ、文字通り同列に論じられる事柄ではないでしょう。まして、「3月まで精神科の病院に入院していた。失業していたとも言っている」ということは防犯カメラ設置の是非とはほとんど何の関連もない。否、触法精神障害者による犯罪の防止と社会復帰の活動に携わってきた経験のある私には、「3月まで精神科の病院に入院していた」との記述は、悩みながらも懸命に positive に生きておられる多くの精神障害者への先入観に基づく侮辱とさえ感じられました。

次に、防犯カメラの画像がこの川崎市の事件では犯人の出頭の直接の契機になったらしいことと、防犯カメラがこの事件を防ぐことができなかったことは別の事柄です。而して、この社説の「防犯カメラがあることを知って犯行を思いとどまる者もいれば、無視するかのように犯行を重ねる者もいる。カメラをかいくぐって犯罪を犯そうという者もいる」という認識自体は正しい。何を私はいいたいのか? 

簡単です。問題を防犯カメラ設置の是非に絞らせていただくとして、防犯カメラの設置を推進する論者は誰も「防犯カメラによって犯罪が完全に防止できる」などとは主張していない。ならば、朝日新聞のこの社説は、どのような装備も制度もそれを越えることが原理的に不可能なハードルを設定しておいて、「防犯カメラもこのハードル(=犯罪の完全な防止)を越えることができないのだから、防犯カメラに期待しすぎるのはよくない」という詭弁を弄するものだということです。

畢竟、防犯カメラどころか犯罪防止のためのすべての制度や装備も所謂確信犯による犯罪を止めることなどできはしないのです。これはアメリカや英国で実際に運用されている所在把握のための発信機装着の義務づけや予防拘束を含む一切の保安処分についても程度の差はあれ言えること。確かに、それらの装置や処置によって薬物常用者の犯罪や累犯性の高い性犯罪者の犯罪、あるいは、任侠や神農の道に生きておられる前科数犯を誇る方々、ならびに国旗・国歌への反対を繰り返す東京都の教職員活動家連中の犯罪をかなりの確率で防止することはできるかもしれませんが、それらとて確信犯の初犯は防ぎようがないことは自明だからです。そして、この経緯は朝日新聞推奨の「住民の目と日ごろの結びつき」についても厳として言えることなのです。

而して、犯罪を完全に防止するなどという神々の世界の基準ではなく、より多くの犯罪をより低コストで防止する施策の具現という人間世界の基準に基づいて議論しようとする場合、防犯カメラの設置は十分有効な犯罪防止の施策である。このことは今次の川崎市の事件を見るまでもなく明らかなことではないでしょうか。マンションから投げ落とされた男児とそのご家族には悲しくも不条理な現実ではあるでしょうが、防犯カメラが被害者男児の不条理な死という現実を防げなかったとしても、防犯カメラの画像がこの41歳の犯人の次の犯罪を防いだことは確かなのですから。

他方、モビリティーが益々高まるこの社会で、また、大東亜戦争後のこの社会で跳梁跋扈し猖獗を極めた戦後民主主義によって崩壊させられた社会の道徳規範という non-performing loans(不良債権)を抱えるこの社会で、「住民の目と日ごろの結びつきを強化することによって犯罪を防止すべし」などの主張は、担保も保証人も出さず、過去の財務諸表や経営者の経歴書も提示せずに空手形だけを信用して取引をしてくれというのと大差のない破天荒な主張だと私は考えます。

而して、この発言が社説子の不注意でなされたものならそれは書生論的な世迷言。もし、それが故意によるものなら「住民の目と日ごろの結びつきを強化することによって犯罪を防止すべし」という主張は姑息で狡猾な詐欺紛いの言説でしょう。そのいずれでもないと言うのなら、朝日新聞は(i)どのようにして、(ii)いつまでに、(iii)どの程度の予算と住民の費用と労力面での負担によって、(iv)何ができるようになれば、「住民の目と日ごろの結びつき」が防犯カメラに優るとも劣らない犯罪抑止の機能を発揮すると言えるかを明示すべきだと思います。

いずれにせよ、現在、やっと教育基本法に「愛国心」が盛り込まれるまでに来つつあるとしても、社会の道徳規範と社会の連帯を掘り崩してきた戦後民主主義を信奉する朝日新聞が、戦後民主主義が崩壊させたそれらの上で始めて十全に機能する「住民の目と日ごろの結びつき」の重視を社説で提言するのは鉄面皮にもほどがある。それは、(近代において国家が家庭や教会から奪った教育権を、「子供の教育を受ける権利」を口実に「子供の一番近くにいる教育の専門家」たる教師に集中させようとした)日教組のその組合員が学力低下の克服のために家庭の教育力の向上を説くのと同じくらい噴飯ものの事態ではないでしょうか。私にはそう思われるのです。

では、この社説を貫く主張は何か? 油を塗った手で鰻をつかむような取りとめのないこの社説で朝日新聞は何を主張したかったのでしょうか? このエントリー記事の冒頭でも推測した如く、それは中立を装った防犯カメラ設置反対論である。而して、朝日新聞の底意は「商店街などの防犯カメラには、監視社会化になるとの批判がある。だが、共同住宅は住民の私的な場だ。みんなが合意すればカメラを設置するほうがいい。しかし、過信は禁物だ」の4センテンスに凝縮していると思います。蓋し、この社説の論旨を私は以下のように整理しています。

(1)商店街などには防犯カメラは設置するべきではない

(2)共同住宅では住民の合意があれば防犯カメラの設置は止められない

(3)しかし、防犯カメラは万能ではない

(4)犯罪の防止には住民の目と日ごろの結びつき強化が一番だ

(5)住民の目と日ごろの結びつき強化を第一にして、プライバシー保護や監視社会化の強化という問題のある防犯カメラ設置は共同住宅でもやるとしても二次的な施策でしかない

(6)この川崎市の事件を契機に防犯カメラ設置を共同住宅でも推進しようというのは短絡的な主張である


繰り返しになりますが、(3)防犯カメラの万能性の議論は神々の基準を人間世界に密輸するものでしょう。また、(4)の防犯施策として「住民の目と日ごろの結びつき」に期待するのは非現実的な書生論にすぎません。加えて、これまた再度記しますが、「住民の目と日ごろの結びつき」も犯罪防止の効果の点では万全ではないし防犯カメラとの優劣は一概には定まらないのです。

ならば(私のこの社説の整理が満更間違いではないとするならばですが)、この朝日新聞の主張は、(1)商店街の防犯カメラ設置反対、(2)共同住宅では住民の合意があれば防犯カメラの設置は止められない、しかし、(5)プライバシー保護や監視社会化の強化という問題のある防犯カメラ設置は共同住宅でも制限的であるべきだ、(6)この川崎市の事件が契機になり防犯カメラ設置が共同住宅でも推進さることには注意すべきだ、というものに他なりません。而して、(2)と(6)が朝日新聞の状況認識であり、他方、(1)と(5)の主張が法律的にはそう根拠の確かなものではないことは明らかでしょう。

蓋し、この社説の主張も「国家権力は悪」「主権国家などは世界市民による地球共同体が実現するまでの必要悪」と考える戦後民主主義を信奉する勢力による<妄想的人権原理主義>のone of variants(同じもの変形の一種)にすぎない。私はそう考えています。

cherryshinyuri



★追記
私はこの事件が起こった川崎市北部(麻生区)に住んでいます。事件が身近で起こったからか、被害者遺族に対してはおそらくそう悪気もなく朝日新聞の社説子が書かれたであろう「住民の目と日ごろの結びつき」に防犯効果を期待することの非現実性にいつも以上に苛立ちと怒りを覚えました。

私も、被害者のご遺族の気持ちなど代弁することなどできませんが、同じ地区に住む者の一人として「犯罪を防げなかった防犯カメラ」の限界を主張するあまり、その対抗馬として「住民の目と日ごろの結びつき」を持ち上げた、そのあまりの非現実さと軽薄さに被害者の恐怖と被害者遺族の絶望に対する配慮のなさを感じてしまったということです。

そう、殺人事件の被害者遺族に「犯人が死刑になっても被害者が生き返るわけではないのですから、極刑を求める主張は取り下げていただけませんか」と人道的な弁護士が善意で語りかける残酷な鈍感さと同じものをこの社説には感じた。防犯カメラは事件を防げなかったけれど、防犯カメラは犯人を出頭させたのだから:被害者の仇を討ってくれたのだから。それは、現在形も何もない<空手形>の「住民の目と日ごろの結びつき」よりも悲しいけれど遥かに被害者とそのご遺族の力になってくれたのだから。

この追記記事の上に掲げた画像は、この事件がなければ被害者男児が家族と一緒に見たかもしれない、新百合ヶ丘~柿生の川沿いの桜並木。昨日撮影のもの。被害者のご冥福を祈るとともに被害者遺族にお悔やみを述べたいと思います。



(2006年4月3日:yahoo版にアップロード)

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