朝日新聞「NHK誤報問題」の社長会見を総括する

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【Asahi Shinbun Tokyo Head Office, Tsukiji, Tokyo】

朝日新聞は、昨日、2005年9月30日、「NHK誤報問題についての総括」らしき社長の記者会見を行った。朝日新聞が外部の識者4名に委託して、「NHK誤報問題」に関する朝日新聞の姿勢などを検討してもらった結果を受けたもの。ご丁寧にも今日の朝日新聞紙面には総合第一面と社会面の他、見開き全2面を使ってこの総括を報じている。ご苦労なことだ。

私自身は、女性国際戦犯法廷なるものを取り上げたNHKの番組改編を巡る「NHK誤報問題」は、朝日側の完敗でとっくに勝負はついていると思っている(詳しくは、下記拙稿をご覧いただきたい)。

NHK番組改変を巡る朝日新聞誤報事件を整理する
 

民衆法廷と無防備地区宣言の妄想と詐術
 

要は、「NHK誤報問題」に関する朝日新聞の主張はどう贔屓目に見ても、「朝日新聞がなぜ誤報を報じるに至ったか」の言いわけにすぎない。つまりそれらは、「誤報は誤報であり、誤報を犯したのなら取材源と読者に事実を説明し謝罪すべきではないか」という批判に毫も反論できるようなしろものではない。しかるに、朝日新聞はこの間、誤報を報じてしまったについてはそれ相当の理由あるという内向きの弁明に終始している、と。

誤報を報じてしまったについてはそれ相当の理由あるのは当たり前のことだろう。いくら「火のない所に煙を立てるのは朝日新聞とドライアイス」くらいというのが日本の常識とはいえ、流石の朝日新聞でもNHKと中川昭一・安倍晋三の両代議士を相手にする以上はそれ相当の根拠を揃えて記事を書いたのは当然だろうから。よって、「実態的な真実を解明する法廷、裁判所」ではなく「メディアとして読者に対する説明責任が果たせているかどうか、率直な意見をお伺いしたい」という:読者の目線から見た場合にこの問題に対する朝日新聞の姿勢がどう見えるかを諮問された『NHK報道』委員会が「1月の最初の記事については相応の根拠があり、(朝日新聞側が)真実と信じた相当の理由はある」という見解を表明したことも当然であろう。

けれど、誰にも間違いはある。それ相当の根拠と思ったものが実は砂上の楼閣だった(本田記者の思い込みに過ぎなかった:中川昭一代議士とNHK幹部の錯覚だった)ということなんか世間と人生にはいくらでもある。そして、間違いがわかった段階では、<ご免なさい>するのが個人の場合にも法人の場合でも当然ではなかろうか。

誤報をするについてそれ相当の理由があったことや、朝日新聞が問題にしたかったことは「中川代議士が問題の番組が放映される前にNHKに圧力をかけた」ことや「安倍代議士がNHKの幹部を(NHK側には用はなかったのに)呼び出した」等々の枝葉抹消のことではなく、<政治とNHKの距離>であるなどは、誤報によってダメージを受けた両代議士やNHKから見ればどうでもよいことである。朝日新聞を信用していたのに裏切られたと(遅きに失するとはいえ)感じた読者にとってもそれはどうでもよいことである。<政治とNHKの距離>や<なぜ誤報を防げなかったか>などは、関係者にご免なさいした後に内部であるいは別途いくらでも追求すればよいことだろうから。畢竟、

「NHK誤報問題」に関する朝日新聞の主張は、
「なぜ朝日新聞は誤報を報じるに至ったか」の説明にすぎない!
「NHK誤報問題」は、朝日側の完敗でとっくに勝負はついている。



以下この記事では、よって、「NHK誤報問題」自体ではなく、「NHK誤報問題」に関する昨日の朝日新聞の総括を俎上に乗せたいと思う。正に、総括の総括である。

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まずは事実の確認。今日、2005年10月1日の読売新聞電子版は、朝日新聞社長の会見をこう報じている(以下、引用開始)。

NHKの番組が政治的圧力で改変されたとした朝日新聞の報道を同社の委嘱で検証していた第三者機関「『NHK報道』委員会」は30日、自民党政治家がNHK幹部を呼び出したなどとした記事内容は、「『政治的圧力』の有無を裏付ける重要な要素なのに、取材が十分だったとは言えない」などと指摘する「見解」を公表した。

これを受けて朝日新聞は、取材が不十分だったことを認める一方で、記事は訂正しない方針を明らかにした。(中略)

また朝日新聞は7月25日付で、番組改変について再取材した総括記事を掲載、その中で「『政治家の圧力による番組改変』という構図がより明確になった」と断定的に述べた。これに対し第三者機関の「見解」は、「事実関係が確定的でないことを朝日新聞自身が認めていることを考えると、(別の)表現の方が適切だったのではないか」と批判した。

しかし「見解」は、当時朝日新聞が「呼び出し」などを真実と信じた相当な理由があったと認定。朝日新聞も、「私たちの判断に、ご理解をいただいたと考えています」とコメントした。(以上、引用終了)



昨日のこの会見を聞いた私の第一感は、「朝日新聞は危機管理のイロハがわかっていないね」であった。

・事実関係が掌握できるまでは余計な情報を外に出さず、ただ誠実に対応する旨を明確に表明する
・事実関係が判明して以降は、自分に不利な情報も含め率先して公表し、謝るべきは謝る


危機管理専門のコンサルタントに相談するまでもなく、これはビジネスジャッジメントのほとんどどのテキストに書かれている危機管理の定石だろう。朝日新聞がこの1月以来やってきたことはこれと反対のことであり、『NHK報道』委員会の見解を受けた昨日の記者会見と今日の朝日新聞に賑々しく掲載された記事は危機管理の4文字が欠如したものと私には思われた。おそらくこの半年の「NHK誤報問題」に対する朝日新聞の対応は、危機管理の最悪のサンプルとして今後、欧米のビジネススクールのケースにも採用されるのではないかとさえ私は考えている。蓋し、朝日新聞は、

(甲)事実の確定の前:

・涙の内部告発会見を行ったNHKの職員からの不確かな情報等を小出しにしたことで、誤報の被害者に敵愾心を抱かせ、かつ、一般の読者や国民にこの事件に関する予断を与えた
・事実が不確定な段階で「誤報では断じてない」という真理告白を繰り返すだけの朝日新聞の姿勢は世間に独我論的な印象を与えた
・問題は「政治とNHKの距離」だとかの、誤報問題と無関係な論点に攻撃防御の焦点を誘導しようとしたことで、「もし誤報だった場合には速やかに記事を改訂し誤報被害者に謝罪する」という、最も低コストで済む問題収束の選択肢を自ら封印した

(乙)事実の確定の後:(2005年7月25日の総括記事の前後から)

・誤報被害者と読者に対して謝罪していない
・「NHKと中川氏の放映前接触」も「安倍氏の呼びつけ」も虚偽と判明しているのにその事実を認めていない
・朝日新聞がもっている「NHK誤報問題」の手持ち情報を公開していない
・「NHKと中川氏の放映前接触」と「安倍氏のNHK幹部の呼びつけ」に関して朝日新聞内部で事実が判明した後も、なぜに朝日新聞が頑なな独我論的な態度を改めず誤報の被害者に謝罪しなかったのかを公表していない
・朝日新聞自体が選定した4名で構成される第三者機関『NHK報道』委員会の出した見解は(朝日新聞の内部に対してはまだしも)、誤報被害者に対する朝日新聞の主張の正当性をなんら担保しえないのに、その「見解」をお墨付きに「NHK誤報問題」を終結させたいという主張を行っており、それは謝罪の意志がないだけでなく問題の存在さえ否定する傲慢な態度と受け取られかねない

朝日新聞はなぜにかくもプアーな危機管理しか取れなかったのだろうか。朝日新聞の内部のことは解らないし、まして、前社長や現社長を始めとする同社の幹部の方々のメンタリティーを想像することにもあまり意味はなかろう。しかし、推測が許されることが一つはあるのではないか。それは、朝日新聞はこのようなプアーな危機管理を行っても世間が許してくれる;誤報被害者への謝罪も誤報記事改訂も行わなくともなんとかこの問題を乗り切れると考えたのだろうということである。ふざけた話である。

これは実に読者と誤報被害者を馬鹿にした話である。場合によっては、政治生命を奪われかねなかった中川・安倍の両代議士がこうむったダメージ;「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク (VAWW-NET Japan) 等のカルト団体が企画実行した女性国際戦犯法廷なるものを垂れ流そうとした番組に修正をかけた当然の処置に対して「政治のNHKへの介入」というレッテルを貼られたNHKが受けたダメージを鑑みれば、朝日新聞がこの程度のプアーな手法で問題を乗り切れると考えたのは「世間知らず」というより「非常識」と評するべきであろう。

先ほどの自己規制を外して私見を最後に述べさせていただければ、朝日新聞のこのふざけた非常識の根底には、目的は手段を正当化する:「権力のNHKへの介入」を批判するためや「日本の戦時性暴力批判への権力側からの圧力に反撃」する目的のためには、右翼政治家の政治生命を危うくするような誤報も許される、という「世界の中心で反日を叫ぶ権利を朝日新聞は持っている」かのような自己中の心性が横たわっているのではないか。ふざけた非常識にまみれたプアーな朝日新聞の危機管理とその一応の総括としての昨日の朝日新聞社の社長会見を見て私はそう思った。


(2005年10月1日:yahoo版にアップロード)

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