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自分がこしらえた「戦争責任理解」に縛られて自爆した朝日新聞社説

shanghai
【Consulate-General of Japan in Shanghai on April 16, 2005】


今日、平成17年5月28日の朝日新聞社説「東京裁判否定 世界に向けて言えるのか」は、正直、不勉強を悪意でまぶした醜悪なものと私には思われました。その「不勉強部分」(特に、所謂「A 級戦犯」など後にも先にも法律的には存在しないこととの無理解、サンフランシスコ平和条約は戦争の歴史的評価を決定するものではないことの無知)にフォーカスしてその擬似論理の展開を以下指摘します。

要は、この社説が俎上に乗せた自民党の森岡代議士も誰も「東京裁判を否定」などしてはいないのであって、その裁判結果を(不条理であり悔しいけれど)きちんと受け入れている。

而して、「東京裁判」や「サンフランシスコ平和条約」の法的な意味を理解せず、法的な理解の水準としては恥ずかしくてとても「世界に向けて言え」ない妄想詐術を展開しているのは朝日新聞のほうなのです。それは、自分達が勝手に想定した「東京裁判」と「サンフランシスコ平和条約」の意味内容から(その内容に、毫拘束される筋合いのない)保守派を批判するとんでもない社説。蓋し、この社説には論じるほどの内容はほとんどなく、それゆえに悪意の為にする文章技巧だけが際立っている。私にはそうとしか思えませんでした。

以下、引用開始。

(前略)「極東国際軍事裁判(東京裁判)は平和や人道に関する罪を勝手に作った一方的な裁判だ。A級戦犯でありながら首相になったり、外相になった方もいる。遺族には年金をもらっていただいており、日本国内ではA級戦犯は罪人ではない」
厚生労働政務官の森岡正宏衆院議員が自民党の代議士会でこう発言した。

A級戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社への小泉首相の参拝を擁護する狙いなのだろう。しかし、戦後の日本が平和国家として再生していくための土台となった基本的立場を否定するものであり、国際的な信義を問われかねない。とても許されない発言だ。

戦争が終わったあと、勝者の連合国は東京裁判を開き、東条英機元首相ら死刑になった7人を含む25人のA級戦犯の戦争責任を認定した。敗戦国として不満はあったかもしれない。日本無罪論を主張したインドのパル判事もいた。だが、日本は東京裁判の結果を受諾することで国際的に戦争責任の問題を決着させる道を選んだ。これはまぎれもない事実だ。

サンフランシスコ講和条約はそのことを第11条にうたい、日本を再び国際社会に迎え入れた。調印した国々の多くは、日本復興への配慮から賠償などの請求権を放棄した。ここから戦後日本は再出発した。東京裁判での戦争責任の決着はその起点である。森岡発言はその土台を否定するに等しい。

A級戦犯の遺族に年金などが支給されているのは、生活の困窮に手を差し伸べる目的もあった。それをもって戦犯の責任自体が否定されたわけではない。(後略、以上引用終了)



話は簡単。
●森岡正宏代議士の発言
(01)極東国際軍事裁判(東京裁判)は平和や人道に関する罪を勝手に作った一方的な裁判だ・・真
(02)A級戦犯でありながら首相になったり、外相になった方もいる・・真
(03)遺族には年金をもらっていただいており・・真
(04)日本国内ではA級戦犯は罪人ではない・・真(国際法的には「国外」でも罪人ではない)

●朝日新聞の主張
(05)(森岡発言は)戦後の日本が平和国家として再生していくための土台となった基本的立場を否定するもの」・・?
(06)日本は東京裁判の結果を受諾することで国際的に戦争責任の問題を決着させる道を選んだ・・真
(07)サンフランシスコ平和条約はそのこと(上記(06)の内容)を第11条にうたい・・?
(08)調印した国々の多くは、日本復興への配慮から賠償などの請求権を放棄した・・真
(09)A級戦犯の遺族に年金などが支給されているのは、生活の困窮に手を差し伸べる目的もあった・・偽
(10)(遺族に年金などが支給)をもって戦犯の責任自体が否定されたわけではない・・真(笑)


以下、この両者の主張を検討します。尚、サンフランシスコ平和条約および東京裁判に関する私の基本的な理解については下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。

サンフランシスコ平和条約11条「the judgments」の意味

日中関係の<悪化>は外交の失敗か?
 


◆極東軍事裁判について
それは、(a)裁判所の構成と適用された裁判規範、そして、裁判手続きのデュープロセスの三面のすべてにおいて極東軍事裁判(東京裁判)は不適切な裁判である。(b)東京裁判は事後法の禁止原則を犯す違法な裁判である。(c)東京・ニュールンべルグの両裁判を通して、「平和に対する罪」「人道に対する罪」等々の新しい国際人権法上の犯罪類型が確立されたという国際法制史上の意義があったとしても、上記(a)(b)の瑕疵は治癒せしめられるものではない。
∴(01)と(04)は真


◆サンフランシスコ平和条約と首相の靖国神社参拝について
サンフランシスコ平和条約は日本と連合国の法的な戦争状態を終結させた平和条約である。平和条約は戦争状態を終結させることを主要な目的とする条約であり、けして、戦勝国側の歴史的正当性なり敗戦国の行為の善悪を定めるものではない。つまり、平和条約としてのサンフランシスコ平和条約の使命の中核部分は条約が締結され批准されたと同時に終了したのである。そして、サンフランシスコ平和条約を日本は完全に遵守した。

ならば、朝日新聞に伺いたい。同条約第11条「戦争犯罪」のどこに、「靖国神社に<東京裁判の戦犯>を祀ってはならない」とか、「祀ったとしても時の内閣総理大臣が参拝してはならない」など書いてあるというのか! まして、日本がこの条約を遵守して連合国との間の戦争状態を終結させ、独立を回復した後に現行憲法に従いどのような歴史認識を編み上げ、また、国家の正当性に関するイデオロギーを形成するかは日本国民の自由であり、毫も、戦争状態終結を目的とした条約に拘束されるものではない。

戦争状態の終結後も占領下の裁判の効果を将来にわたって有効とするサンフランシスコ平和条約第11条は慣習国際法に反し無効である。少なくとも日本が独立回復後そう主張して第11条の無効を宣言することを条文自体を根拠に(日本が条約に調印し批准したことを根拠に)非難することは誰にもできない。更に、サンフランシスコ平和条約第11条は法概念論(≒実定法における法源論)から見ても無効である。同条約総体は現行憲法第98条第2項から法的効力を持つにせよ、第11条で「戦犯」の人権を制限し続けることは現行憲法上不可能であるからである。元来、「戦犯」なり「A級戦犯」なる法律用語は占領下においてさえ存在しない。まして、現行憲法下ではなおさらである。これは「言葉の遊戯」ではなく、存在しない法律概念を元にある特定の人間の人権を制限することは完全に違法である。
∴(06)と(08)は真。また、この面からも(04)は真。しかるに、(07)は疑問。


◆所謂「A級戦犯」について
昭和28年(1953年)には、「戦争犯罪による受刑者の放免に関する決議」が国会で圧倒的多数でもって可決され、サンフランシスコ平和条約第11条に従い(上でも述べたように法論理的には、サンフランシスコ平和条約第11条に従う必要はないのだけれど、我が日本はきちんと関係諸国(その当時の「中国」たる中華民国も含めて!)に仁義を通した上で、)の同意の下に総ての「戦犯」は全員釈放された。その背景には6000万人ともいう「戦犯放免の嘆願書」国会提出の全国的なうねりがあったのである(詳しくは、下記の国会議事録参照。そして、平成10年の竹内外務省条約局長の国会答弁も実はこの見解と矛盾しない)。

・第11号 昭和27年12月9日の戦争犯罪による受刑者の釈放等に関する決議案
 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/015/0512/01512090512011a.html

昭和29年(1954年)からは「戦傷病者戦没者遺族等援護法」によって、「戦犯」の遺族も他の戦没者遺族と同じく遺族年金・弔慰金が支給されるようになった(翌昭和30年には、東京裁判のための拘禁期間をも支給額算定対象期間とした恩給の支給も開始された)。つまり、朝日新聞の言われるとおり、「遺族に年金などが支給をもって戦犯の責任自体が否定されたわけではない」のだ。それは、戦犯を放免する(上で述べたように、戦犯自体が法的には「罪人」ではないのだけれど、)国民の世論が先にあり、「年金などの支給」はその結果にすぎない。
∴(02)と(03)は真。また、この点からも(04)は真。しかるに、(09)は偽。(10)は2回計算違いを行って(笑)結果的に真♪


◆総評
上で検討したように、森岡正宏代議士の発言内容;(01)~(04)には何の間違いもない。ならば、朝日新聞はこの社説で何を主張したいのか? 特に、朝日新聞の社説子は(05);「戦後の日本が平和国家として再生していくための土台となった基本的立場」という言葉で何を言いたいのか? 上記の分析でも(05)については言及していないけれど、それはこの命題が「真偽」を判定できるような内容を持たない文芸評論的や詩歌の言語に他ならないからである。

もちろん、日本は「日本は東京裁判の結果を受諾することで国際的に戦争責任の問題を決着させる道を選んだ」。それは間違いない。上にも述べた極東軍事裁判の不条理にもかかわらず日本はサンフランシスコ平和条約を締結することによって(片面的にせよ旧連合国との間の)戦争状態を終了させたのである。

しかし、そこで日本が受け入れたものは、海外領土の放棄や日本の社会制度の改革等々占領軍から課せられた命令を誠実に遵守遂行して、占領政策の是非や非道については独立後も法律的に争わないことを約束し、戦争を終結させることに尽きる。少なくとも、国際法的と外交史的にはそうである。ならば、独立後の「戦犯」なるものの処遇に関して(まして、政府から独立した宗教法人たる靖国神社に誰を祀り誰がいつ参拝しようが靖国神社と参拝者の勝手である)、サンフランシスコ平和条約や東京裁判を持ち出すことは何の意味もないのである。このことを知らずに書かれたのならこの社説は不勉強のたまものであり、それを承知で書かれたのなら<悪意の為にする文章技巧>の産物と言うべきであろう。しかも、この社説は自爆しているのかもしれない。

サンフランシスコ平和条約や東京裁判にここで述べた以外の内容を見出すのは論者の勝手である。しかし、そうしたいと思う論者はその法的と外交慣行における根拠を他者に示さない限り、その主張は単なる願望か妄想、あるいは、「不勉強を悪意でまぶした詐術」にすぎない。しかし、朝日新聞がその社説で日本が「戦争責任の問題を決着」させていること、「東京裁判での戦争責任の決着」を認めたことは今後大きいのではないか(笑)。ならば、それは、自分がこしらえた戦争責任理解に縛られて自爆した社説というべきかもしれない。私はそう考える。


(2005年5月28日:yahoo版にアップロード)

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