『試験にでる英単語』

shiketan


◆『試験にでる英単語』
:森一郎・青春出版社、1967年10月 (CD付きで販売中)


ハンバーガーショップの「マクドナルド」が関東では「マック」、関西では「マクド」と呼ばれるように、本書も関東では「でる単」、関西では「しけ単」と地域によって両様の愛称で呼ばれていますけれど、形も価格も手ごろな新書サイズ(現在の版は少し大きめ。)ということもあって、おそらく、日本の英語教材のベストセラーの一つだと思います。

本書にとりあげられている単語が約1800語と類書の中では収録単語数が比較的少ないこと、収録単語に例文がついていないこと(それと最近出版された類書に比べればですが、ごく最近まで音源が別売だったこと。2003年1月にCD付き『耳から覚える 試験にでる英単語』版が販売開始。)という致命的な弱点を抱えつつ売れに売れてきた単語集です。流石に、大学受験用単語集のシェア第一位の座は『DUO』(アイシーピー)や『ターゲット』(旺文社)に奪われてしまったとは思いますが、本書『試験にでる英単語』はいまだに根強い人気を誇っています。

何故かくも『試験にでる英単語』はマーケットに支持されてきたのか? これは中途採用で英語教材の編集者を採用面接させていただく際には最適な問いの一つかもしれません。それくらいこの問いは業界では定番の話題であり常識の一つだと思います。

『試験にでる英単語』はなぜベストセラーになったのか? 
当時はまだ珍しかった、接頭辞・語根・接尾辞の語源の紹介を導入した点も(特に、販売当初の頃は)本書の特徴の一つではありました。しかし、『試験にでる英単語』がブレイクした理由は、何と言ってもそれが、旺文社の『赤尾の豆単』(=赤尾好夫『英語基本単語熟語集』1955年)に代表される(★)、それまでの単語集が目指した「よく出る単語」ではなく「重要な単語」を収録したことと、著者の超人的な努力によって(当時の)日本の大学入試問題のほとんどをカバーする母集団の中から収録する単語を選んだこと。これ言うは簡単だけれど、パソコンも存在しなかった半世紀近く前にこれを独力でなし遂げられたことは(★)、正に、驚異的な業績です。

★註:『豆単』
『豆単』もそれが登場する前の状況を激変させた名著です。それまでは、あやしい単語帖を除けば、大東亜戦争を跨いで旧制高校の受験から新制大学の受験に至るまで、受験生とっては文字通り「辞書」が単語集でした。その頃の古き良き時代の武勇伝として「「英和辞書」を片端から覚えていき、そいでもって覚えたページはこれまた文字通り食べていき、最後は辞書が表紙だけになった」というのが残っているくらいです。而して、『豆単』はそれを頻度順という切り口で劇的にコンパクトにした。

また、旺文社の心意気ですが、先代の赤尾先生は、「世界で通じる英語が使えるように」という目的も盛り込まれた。単語の選択に英会話や(当時の)新しい単語も入れられています。実用用語辞典の側面もあり、そのためもあってアルファべテイカルな配列になっています。逆に言えば、『豆単』の志は「受験ツール」を超えていた、で戦後世の中が効率を追いかけるようになると淘汰された。春秋の筆法のようですがこれが実情だと思います。元旺文社の社員としてはその状況を改善できなかったことには忸怩たる思いも無きにしも非ずなのですが、そう思います。


★註:コーパース
コンピューターのデータベースを使った単語の頻度決定や個々の単語に何らかの「重要さ」の度合いを表す数値(Value)を与えて分析することは現在ではそう珍しいことではなくなっています。というか現在の辞書編纂の方法論でもある「コーパース」とはこれそのもののことです。よって、『試験にでる英単語』は、現在のコーパースの手法を使った辞書作りの作業と本質的には同じ方法論を使って作成されたと言えると思います。



mametans
【Mametan:『英語基本単語熟語集』】

再度書きます。「コンピューター」なるものが<庶民の辞書>には存在していなかった40年から50年前に、「データベース」と「重要さ」という概念を自力で確立し(これが凄い!)、かつ、これらの概念を使い切ることで膨大な過去の大学入試問題の中から宝物(=試験にでる「重要な」英単語)を手作業で拾い集められたこと(これが偉い!)は、少なくとも<プロジェクト・X>もんの業績ではないでしょうか。パチパチパチ♪

「パチパチパチ」の音が私的には鳴り止まないのですが、ここは「不特定多数」の方が訪問していただく可能性のある公共のブログ。よって、以下、本書の斬新さをもう少し具体的に考えてみることにします。硬く言えば、追体験的と歴史的なアプローチによる『試験にでる英単語』の考察。まずは追体験的アプローチ(?)から。次の動詞群を見てください。

be, say, include, have, make, take, use, give, tell, accord, finish, want, pay, provide, work, allow, become, call, know, dispatch, find, raise, come, consider, expect, follow, increase, add, hope, improve, offer, pass, plan, set, base, concern, hold, introduce, live, think, ask, bank, believe, close, collect, extend, get, help, need, learn


これは2003年の7月16日から8月4日の"Daily Yomiuri"に掲載され記事に含まれる総てのセンテンスの述語動詞を書き出し、その母集団の中の要素(動詞)を頻度順に並べた上から50番目までのリストです(細かな採取ルールは私の「企業秘密」なので公開はいたしかねます♪)。実に、この50個までで全対象センテンスの約42%をカバーしていました。次に別の動詞群を見ていただきましょう。

telephone, send, sell, request, receive, read, meet, indicate, handle, force, file, exist, establish, enclose, discuss, decrease, declare, deal, damage, tend, contact, complete, cite, check, change, certify, cancel, build, book, arrive, arrange, appreciate, answer, announce, agree, accept (36個)


これは3回分のTOEIC過去問題を対象に、そのパート7(読解問題)の課題文に含まれる全センテンスを上と同じ方法で分析して得たリストです。ただし、上の"Daily Yomiuri"の頻度順50個に含まれなかったもののみ列挙しています(ということは二つのグループに共通な単語は14個しかなかったわけです。ちなみに、TOEICの場合、上位の50個の動詞で全センテンスの述語動詞の約48%を占めていました)。

どうでしょうか? この実験から二つのこと(細かく言えば三つのこと)が言えると私は思っています。①:頻度順による単語選定という同じ方法論を使っても母集団が異なれば、その結果は全く異なってくること。また、②:これらの頻度の高い単語を全部知っていたとしても、おそらく英字新聞やTOEICの英文の意味はほとんど理解できないだろうこと。ならば、②-1:英字新聞の記事やTOEICの課題文を読んで素早く正確に意味を取れるようになるためには頻度順に選ばれた単語ではない別の基準によって選ばれた単語を(頻度順の単語リストに加えて)覚える必要があること。


前に予告しておきました「歴史的なアプローチ」による『試験にでる英単語』の考察を通じて、上の②と②-1のポイントを敷衍したいと思います。単語の知識とコミュニケーション能力の関係についての古典的な統計研究:"An English Word Book" (E.L. Thorondike, 1950)は概略こう言っています。

英語のネーティブスピーカーが、英単語1万語で話したり書いたりする総ての言語生活を行っていると仮定した場合、その言語生活に現れる単語を頻度順に並べてみると、最初の500語で当該のコミュニケーションに登場する全文の82.05%がカバーされ、最初の1,000語では89.61%、3,000語ではなんと全文の97.66%をカバーできる、と。

統計学の専門家からはこのThorondikeの統計分析にはかなりラディカルな批判がなされていますし、統計学マニアの私から見ても"An English Word Book"の理論的基礎はかなり危ういと言わざるをえません。しかし、それがいかに古い調査でありいかに非現実的な仮定の上になされていようとも、「3,000語で97.66%の英文がカバーされている」という結果は強烈です。この結果に基づいて浜島書店の『基本単語3500』、『必修単語6000』などは制作されているくらいですから。

しかし、3,000語も覚えれば英語のネーティブスピーカーと対等に英語でコミュニケーションが可能でしょうか? おそらく、インターナショナルビジネスの経験者なら誰しもが「No」と応えるのではないかと思います。

実際、日本の(学力低下の元凶として悪名高い)現行の学習指導要領でも、中学校で約900語、高校では約1,300語(英語Ⅰで400語、英語Ⅱで900語)を子供達に学ばせるようになっています。それは、Thorondikeの統計分析によれば約95%の英文をカバーする単語数ではあるのですが、中学と高校で習った英単語を完全に覚えている若者がTOEICで何点取れるかと想像した場合(リスニング能力や文法の知識はそこそこ備わっていると仮定したとしても)、どの英語教師もそう愉快なスコアは予想できないと思います(笑)。まして況や、TOEFLや英字新聞やビジネスコミュニケーションにおいておや! 何故か?

単語の面では95%をカバーしていながらも、英語でのコミュニケーションがそう楽観視などできないこと、いわば<95%のパラドックス>とも言うべきこの現象の要因は何でしょうか? 文法や語法の知識を度外視して単語だけに問題を絞る場合、<95%のパラドックス>の原因は残りの5%の方にあるとしか考えられません。

要は、2,200語を超えて(あるいは、Thorondikeの仮定の10,000語を超えて)愚直にボキャブラリービルディングに邁進する剛毅な道か、英文の意味把握を難しくしている「重要な単語」をピンポイントで覚える怜悧なやり方でしか<95%のパラドックス>は解消できないと思います。そして、『試験にでる英単語』の著者、森一郎の独創は後者の方法で<95%のパラドックス>を解消しようとした点にあると私は思っています。

本書の著者は「重要な単語」の定義についてこう書かれています。重要な単語とは「一口で言えば、今日の知識人が、日常好んで口にするような知的・抽象的な単語で、しかも、あまり専門的でないもの」であり、「もしこれらの語の一つでも知らなければ、その問題全体の意味をつかむこと」が不可能になるような単語である(★)、と。見事だと思います。


★註:『試験にでる英単語』に収録されている単語の例
fascinate, exploit, interpret, recollect, astonish, constitute, perceive, trespass, extend, discourage, exceed, dismiss, cultivate, repair, associate, reproduce, contain, mock, coincide, mold, resent, thrive, usher, beware, discard, capture, infect, provoke, rebel, withstand, accumulate, aspire, abandon, implore, portray, regulate, guarantee, plead, reprove, lade, beguile, precede, ally, vouch, deposit, pant, assign, disdain, invert, warrant 

前に列挙した二つの頻度順の単語リストと比較するために『試験にでる英単語』の第3章「試験にでる重要単語」の動詞の節(148-172頁)から、πをキーとする無作為抽出で50個を選択したものです。



尚、本稿で使った二つの頻度順の単語リストは、ある大手予備校の依頼により私がプロジェクトチームを指揮して調査した結果の一部であり、無断引用はご遠慮ください♪


(2005年6月11日:goo版「英語と書評 de 海馬之玄関」にアップロード)

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
戦後民主主義を批判する営為の一環として、ブログランキングに
参加しています。結構、真面目に取り組んでいます。よろしければ、
下記リンク先【FC2ランキング】及び【人気blogランキングへ】
にクリックを二つお願いいたします。

fc2rankbanner
(↑)【FC2ランキング】

img35475
(↑)【人気blogランキングへ】
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



スポンサーサイト

テーマ : 英語・英会話学習
ジャンル : 学校・教育

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

KABU

Author:KABU
大東亜戦争終結後のこの社会で跳梁跋扈し猖獗を極めた戦後民主主義の批判を果敢に推進するための
yahoo版のミラーブログ。
2007年9月10日以降の新記事を随時、厳選した過去の自薦稿を漸次アップロードしていきます♪

百人一首 de 海馬之玄関
問い合わせ先
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
使用状況de電気予報
人間が好きになる名言集

presented by 地球の名言

人生が輝き出す名言集


presented by 地球の名言
夢を叶えるための名言集


presented by 地球の名言
仕事が楽しくなる名言集

presented by 地球の名言

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

ブログ内検索
検索 de 記事リスト
最新の記事
最近の記事
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

FC2ブログランキング
fc2rankbanner
miniTube