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カント『純粋理性批判』批判のための10冊

kant


カントの哲学と思想の「奥の院」とはいわないが、少なくとも、外宮の御神体ではある『純粋理性批判』を理解するための「Book Guide Book」です。この記事を読んでいただいたある哲学教師からは、

「この十冊を読むくらいなら、『純粋理性批判』十回読んだほうが早いと思いますが・・読めと言われてこれを全部読む健気な人はいますか? カントについては、単に理性や悟性を持ち出すのではなく、「経験の可能性の条件」という論点を組み込むことで、カントは相対主義を克服しようとした」のではないか。


というコメントを頂戴いたしました。確かに。けれども、実は、カントの『純粋理性批判』やヘーゲルの『精神現象論』、あるいは、マルクスの『資本論』やアダム・スミスの『国富論』などは、その思想家の専門研究者でもない限り、なかなか1回でも読み通した人は少ないのが現状です。それは、彼や彼女の不勉強のせいばかりではなく、哲学や社会科学といえども研究の細分化の潮流が激しい現在、自分の研究テーマと少しでも離れた古典を読むほどの時間の余裕はなかなかないということ。

ならば、御用とお急ぎの方に、1回でも『純粋理性批判』を読見通してみようという気になってもらうには、これくらいの補助線というか下準備の作業を薦めるのは満更無理難題であるとは私は思いません。FC2版に収録する所以です。


■『純粋理性批判』とは何か?
世界は個々の人間が主観的に認識しえた限りの「世界」にすぎない。ならば、人間の認識する「世界」のあり方は人間の認識能力に規定される。この主張と、人間が認識する「世界」についての知識は、単なる個々人の主観を越え万人を納得させうるような客観性を帯びるのではないかという主張を両立させる試みをカントは『純粋理性批判』の中で展開した。

どの哲学史の教科書にもこう書いてあると思います。而して、その両立の秘訣は、外界の本当の姿である物自体(Ding an sich)が人間の認識=感性認識の原因であり、物自体そのものの姿を神ならぬ身の人間は認知することはできないものの、人類の一員としての個々の人間に共通に与えられている感性と悟性と理性の働きにより単なる個人的主観を超えた客観的な世界認識に人間は到達することができるとカントは考えた、とも。

このカントの試みは成功したものでしょうか? この問を自分で考えるために役に立つ10冊を紹介します。日本語で読め(絶版にしても)比較的容易に手に入るものを選んだつもりです。ポイントは、①哲学の教科書やカントの原典や原書を読まなくとも、また、②「最新流行の哲学諸説」をフォローなどせずとも、(イ)カントが『純粋理性批判』で狙った意図の可否を自分で判断するために必要かつ十分な情報を入手できる、而して、(ロ)21世紀の現在に生きている日本人と日本市民が「カントの試みの成否」を問う中で自分に関係の深い政治的な諸問題をより論理的に考えられるようになるための10冊に絞ったこと。

ちなみに、私はカントの意図は成立しないと考えています。しかし、カントは『純粋理性批判』の試みによって、人間中心の哲学という別の大きな果実を人類にもたらしたとも考えている。この経緯は、そう、喩えれば、コロンブスがインドに行こうとして新大陸を(地理上の)発見したのとあるいは同じようなものかもしれません。

而して、これはマルクスが資本主義を批判しようとして「生態系と市場との妖艶な関係」を探り当てた経緯にも似ているし、あるいは、ウィトゲンシュタインが分析哲学の樹立に貢献したと同時に、哲学そのものの存在論的な限界を見出したことと一脈通じるかもしれない。神ならぬ身の人間にとって、間違いなく一個人のキャパシティーを越える「言語」や「論理」に挑戦するという営みは、所詮、哲学史のスパンで振り返ればこのような一種、ドン・キホーテ的な営みであることは避けられないのかもしれませんね。けれども、それがまた哲学というか科学の醍醐味でもありましょうし、哲学者の喜劇的な努力が、しかし、人類に与えた影響はけして小さくはない。そのことは、錬金術から化学が生まれた経緯や、20世紀の半分×地球の半分をマルクス主義が支配した現実を想起すれば思い半ばにすぎるのではないでしょうか。

尚、私の基本的な社会思想的の立場は<筋金入りのマルクス主義民族主義>であり、哲学の立場はカントとカール・ポパーと現代解釈学と中島みゆきに足場を置くものです。もしご興味があれば、下記の拙稿もご参照ください。

哲学と将棋のアナロジー遊び
 
哲学と地ビールと
 

■『純粋理性批判』を批判する視点
(A)物自体からの刺激が均一であり得るか? 
  人間の感性と悟性と理性は個々人の個体差を超えて均一であり得るか?

(B)『純粋理性批判』の主張する人間一般の認識/判断能力は所詮、スコラ哲学に源を発する<論理学>の図表に過ぎぬのではないか? これを否定できないとするならば、カントの主張の正しさの「射程距離」はスコラ哲学の正しさのそれと運命を共にするのではないか?

(C)カントの試みがスコラ的な論理学に依拠するものかどうかは別にして、カントの主張が言語分析と論理分析を材料に組み立てられていることは自明であろう。ならば、『純粋理性批判』の正しさは、言語が持つ歴史性や社会性によって減じられることはないだろうか?

(D)カントの試みが人間一般の認識能力、即ち、感性・悟性・理性の個体差を越えた共通性に依存するものである以上、心理学から捉えられた人間の多様性や異常性によってカントの主張は減じられることはないのだろうか?

(E)カントの語る物自体は『純粋理性批判』では物が存在している<事実>であるに対して、『実践理性批判』では(実は、『純粋理性批判』でも!)道徳や価値判断の根拠とされる。ここには、「神が物も道徳も与えた」というキリスト者の間でしか了解されえない<仲間内の合意>という、いわば「輸入検疫」の済んでいない前提が伏在してはいないか?



■『純粋理性批判』を批判するための10冊
00)デカルト『方法序説』『哲学原理』
・・論点(A)
・・これはやっぱ読まないとね。

01)岩崎武雄『カントからヘーゲルへ』
・・論点(B)&(E)
・・名人芸。

02)ウィトゲンシュタイン『論理哲学論稿』
・・論点(B)
・・これは英語で読まれることをお薦めします。

03)竹田青嗣『現象学入門』
・・論点(B)&(E)
・・最初にこれ読んだら、哲学が分かった錯覚に陥る。

04)渡辺慧『認識とパタン』
・・論点(A)&(B)&(E)
・・絶版。でも名著。

05)池上嘉彦『記号論への招待』
・・論点(B)&(C)
・・記号論ブームが去り、記号論の「取説」の本書が残った?

06)マルクス『ドイツ・イデオロギー』
・・論点(C)
・・『ヘーゲル法哲学批判序説』でも可。

07)廣松渉『今こそマルクスを読み返す』
・・論点(C)
・・廣松さんの著書の中で唯一お薦め。

08)川勝平太『日本文明と近代西洋』
・・論点(C)
・・これ読んだらアナール派もウオーラスティンも読まなくともよい。

09)川喜多二郎『素朴と文明』
・・論点(C)
・・第1部だけでもOK。

10)フロイト『精神分析学序説』
・・論点(D)
・・フロイト流精神分析学は過去の遺物だろうが、お話としては面白い。



(2005年3月6日:yahoo版にアップロード)

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