外国人学校に対する公的助成は常識と語る非常識な朝日新聞の投稿

pachigi3


朝日新聞の「私の視点」欄で凄まじい投稿を目にしました。在日韓国人問題研究所所長の佐藤信行さんの「外国人学校 多文化共生へ制度的保障を」(2007年1月17日)。この投稿がなぜ「凄まじい」かと言えば、故意とすれば犯罪的な虚偽、過失とすれば実にお粗末な誤謬(つまり、読者をミスリードさせかねない記述)が盛り込まれており、加えて、それらの虚偽や誤謬に基づいて筆者の願望や妄想としか呼びようがない主張が展開されているからです。以下、当該投稿を要約引用します。


いま日本には、208万人以上の外国人が住んでいる。また、日本人と外国人との国際結婚などで、複数の国籍を持つ子どもも増えている。それらの子どもたちのうち数万人が、外国人学校に通っている。

現在、朝鮮学校や韓国学校、中華学校は約100校ある。さらに、近年になって日本に定住するようになった「ニューカマー」の学校が急増し、94校のブラジル学校をはじめ、ペルーやインド、フィリッピン学校など100校を超えた。創立100年を超える中華学校や、戦後、自民族の言葉や文化を取り戻すために設立された朝鮮学校と韓国学校など、外国人学校の背景はさまざまだ。(中略)

政府は外国人学校を、普通教育を行っている正規の学校として認めていない。そのため、国庫助成はまったくない。同胞などからの寄付金に多くを支えられている外国人学校で、欧米系の学校は寄付金の免除措置を受けられるようになったが、同じ各種学校として認可されている朝鮮、韓国、中華学校は対象から除外されたままだ。一方、ニューカマーの学校のほとんどは各種学校の認可さえとれず、「私塾」扱いのために、地方自治体からの助成もない。(中略)

日本国籍の子は公立小中学校で無償の義務教育が保障され、私立学校への助成も手厚い。しかし外国籍の子どもの場合、親が母語と母国の文化の継承を願って外国人学校に入学させたら、公的措置から見放されてしまう。そのうえ各種学校の認可を受けていない学校では、授業料に消費税が課せられ、通学定期券も買えないなど、親の経済的負担はいっそう大きい。

外国人学校が200校以上も存在するのに、公的助成がほとんどなく、外国人コミュニティーの自助努力だけで運営され、公教育の領域から締め出されている。このような日本の現状は、諸外国を見渡しても、稀有な例であろう。

私たちはいま「多国籍・多民族・多文化」社会を迎えて、「国民教育」から脱却し「多民族・多文化共生教育」への転換を迫られているのではなかろうか。そのためには多民族・多文化共生教育のための指針を確立し、「外国人学校振興法」の立法化など制度的保障の実現を急がねばならない。これは子どもの権利条約などの国際人権条約を履行することであり、21世紀を生きる子どもたちへの、大人の責務でもなる。(以上、引用終了)



lindalindakorea



◆投稿における虚偽または誤謬
戦前・戦後、その大部分が朝鮮半島の生活苦や身分差別から逃れて日本に来た在日韓国人や朝鮮人の人々について「戦後、自民族の言葉や文化を取り戻すために設立された朝鮮学校と韓国学校」などと、不正確な歴史認識からの「取り戻すため」などの不適切な記述は置いておくとして、この投稿に盛り込まれた虚偽または誤謬は次の4点だと思います。

すなわち、(1)同じ各種学校でも欧米系の学校は寄付金の免除措置を受けられるようになったが、朝鮮、韓国、中華学校は対象から除外されたままだ、(2)日本国籍の子は公立小中学校で無償の義務教育が保障されている、(3)外国人学校に公的助成がほとんどない日本の現状は、諸外国を見渡しても、稀有な例、(4)外国人学校に対する公的助成は子どもの権利条約などの国際人権条約を履行することだ、の4個です。

(1)欧米系の外国人学校の寄付金免税措置
寄付金の課税免除が受けられる所謂「特定公益増進法人」の要件は、2003年3月31日に公布された財務省の所得税法施行規則および法人税法施行規則の一部改定省令によれば、

①「公益の増進に著しく寄与する法人の範囲」に、「初等教育または中等教育を外国語により施すことを目的として設置された各種学校」を加える。②その各種学校は「文部科学大臣が財務大臣と協議して定める基準に該当するもの」

と定められており、また、所得税法78条2項2号及び法人税法37条4項2号は、いわゆる(課税免除が認められる)「指定寄付金」の要件について、

民法第34条の規定により設立された法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄付金のうち、次の要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したもの
 イ 広く一般に募集されること。
 ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること
と定めています。

而して、文部科学省はその告示で「「特定公益増進法人」として認められる各種学校とは、「外交」「公用」「投資・経営」などの在留資格者の子どもを対象とする学校であり、国際バカロレア(スイス)、WASC(米)、ACSI(米)、ECIS(英)のいずれかの教育評価団体の認定を受けたインターナショナルスクールのみとする」と定めています(その後、韓国学園等の一部のアジア系外国人学校も「特定公益増進法人」に含まれるようになり現在に至っています)。

畢竟、本国政府または世界的な教育評価機関の認定を受けており、かつ、日本人を含む入学希望者に広くその門戸を開いている外国人学校ならば寄付金の免除措置を受けられる。つまり、その判定には民族差別的な要因は存在していないのです。実際、所謂「アメリカンスクール」に子女を通わせている日本人や在日韓国人・朝鮮人の家庭はけして少なくないでしょう。

畢竟、寄付金の免除措置を受けられる学校と、その対象から除外されている朝鮮、韓国、中華学校の間には明確な違いがあるのであってこれらを「同じ各種学校」と記して、あたかも、寄付金の免除措置を受けられる外国人学校かどうかの判定を民族差別的な要因が左右しているかの如く記す投稿の記述は、読者をミスリードさせかねないものではないでしょうか。


(2)無償の義務教育の保障
「日本国籍の子は公立小中学校で無償の義務教育が保障され、私立学校への助成も手厚い。しかし外国籍の子どもの場合、親が母語と母国の文化の継承を願って外国人学校に入学させたら、公的措置から見放されてしまう」という記述で著者は何を言いたかったのでしょうか。私には意味不明でした。なぜならば、それこそ「子どもの権利に関する条約」(28条1項a号)により、日本では国籍・人種・民族等にかかわらず義務教育の対象学齢の子供には等しく無償で公教育が提供されているからです。実際、義務教育が無償であるだけでなく、神奈川県川崎市では日系ブラジル人家庭の子女のために週2回ポルトガル語のできる方を学校に無償で派遣してブラジル人の子供達の学習や異文化で暮らす悩みの相談を受ける体制さえ整えているのですから。

在日韓国人・朝鮮人の子供達も日本の公立学校に通うことができる。ならば、投稿子が指摘しておられる<問題>とは、日本の公教育を受けさせたくない外国人家庭が、日本の公教育の制度やカリキュラムを離れて作られた、しかも、自国政府や世界的な教育評価機関の評価基準とも整合的でない、加えて、広く一般から生徒を募集しようともしない、畢竟、それこそ言葉の正確な意味での「私塾」としか言いようがない外国人学校には公的助成が行われていないということに尽きているのではないでしょうか。けれども、それの何が問題か。そのような典型的な「私塾」に公的助成を行うことはいわば「公金の私的流用」でありそちらの方が問題であるように私には思えてなりません。


(3)外国人学校に公的助成しない日本は稀有の存在か?
外国人学校に公的助成がほとんどなされていない「日本の現状は、諸外国を見渡しても、稀有な例であろう」と投稿子は書いておられる。けれども、今回、この記事を書くにあたって、改めて、日本の文部科学省、アメリカの教育庁、海外の日本人学校で働いておられる旧知の先生方に確認しましたが、世界を見渡しても「外国人学校に公的助成」を行っているような国は見当たりませんでした。

投稿子がどのような国々を念頭に置いてこのように書かれたのかは不明ですが、「公的補助をしない日本は極めて例外的な存在」というその主張は、率直に言って、虚偽であるか誤謬にすぎないと私は断言します。


(4)外国人学校への公的助成は国際人権条約の履行か?
上述の如く、子どもの権利に関する条約には「義務教育の無償」(28条1項a号)に加えて「少数・先住民の児童の権利」(30条)も謳われています。けれども、(国民である少数民族や先住民族ではなく)外国人に対して、公教育と異なる制度やカリキュラムに従って運営されている学校(=私塾)への公的助成を条約の締結国に課した条規はどのような国際人権条約にも存在しません。

よって、ここでもまた私は、外国人学校への公的助成は国際人権条約の履行だという投稿子の主張は虚偽であるか誤謬であるとしか言えないのです。いずれにせよ、このようなお粗末な事実誤認が全国紙の「投稿コラム欄」に堂々と掲載されるなどは、それが朝日新聞であったればこそ「またか」ですが、朝日新聞でなければ「まさか」の大失態なのではないでしょうか。

pachigi2


◆結語にかえて - 事実と妄想
投稿子は事実と自己の願望もしくは妄想を混同してこの投稿を書かれたのではないか。蓋し、投稿子が「私たちはいま「多国籍・多民族・多文化」社会を迎えて、「国民教育」から脱却し「多民族・多文化共生教育」への転換を迫られているのではなかろうか」と考えられるのはご自分の勝手でしょう。また、そのような認識と、「多民族・多文化共生教育のための指針を確立し、「外国人学校振興法」の立法化など制度的保障の実現を急がねばならない」という政策は矛盾しないと思います。

けれども、在日韓国人・朝鮮人の帰化が毎年1万人前後のペースで粛々と進んでいる現在、前者の状況認識は唯一絶対のものではないだろうし、また、前者に同意するとしても、後者に関しては投稿子とは逆に「そんな状況だからこそ、外国人の子女にも可能な限り日本の公教育を受けてもらい、日本社会の社会統合を強化すべきだ」という主張も投稿子の主張と少なくとも同程度の説得力を保有しているのではないか。畢竟、本稿は事実誤認が散在する粗雑な論稿であるだけでなく、根拠を欠いた投書子の願望のメモ書きにすぎない。私にはそう感じられました。




(2008年1月21日:yahoo版にアップロード)

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