陪審制の「母国=英国」で陪審員抜き裁判の実施が決定

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陪審制の「母国=英国」で、これまで陪審員による審理が必須であったカテゴリーの事件に関して初めて陪審員抜きで裁判が行なわれることになりしました。憲法上陪審裁判を受ける権利が保障されているアメリカとは異なり(合衆国憲法修正6条及び7条、乃至14条)、英国では、①実質上民事事件での陪審裁判と、刑事事件においても起訴が妥当か否かを決める所謂「大陪審」(Grand Jury)は1933年と1948年の法改正によって消滅し、②刑事事件に関しても略式起訴相当の比較的軽微なカテゴリーの事件に関しては陪審(すなわち、有罪か無罪かを決める「小陪審」Petty Jury)は行なわれていないのですが、今回の陪審員抜き裁判の決定は英国における陪審制の核心に触れるものと言えるかもしれません。

而して、些か旧聞に属しますが、我が国の裁判員制度の将来を考える上で参考になると思いこの報道を紹介します。畢竟、我が国の裁判員制度は中庸を得た賢慮か、それとも、時代遅れの愚挙か。英米の陪審制度の短所とその改革の趨勢を研究して導入された我が国の裁判員制度は、犯罪者の人権にのみ配慮する趣も無きにしもあらずの硬直した刑事司法の現状を改革する妙手なのか、それとも、世界的に衰退に向かいつつある素人裁判官制度を取り入れた時代遅れの悪手なのか。保守改革派の読者の皆さんとともにこの問いを反芻する契機にこの海外報道紹介記事がなればいいと思っています。出典は、2009年6月18日付のBBCニュース” First trial without jury approved”「陪審員抜きの裁判が始めて認められる」(下記URL参照)。参考のため、読売新聞の記事も同時に引用しておきます。

尚、現在、制度改革の最中ですが英国の司法制度に関しては下記wikipediaの記事を参照いただければ分かりやすいと思います。そして、「刑事司法」と「裁判員制度」に関する私の基本的な考えについては本稿末尾にURLを記した拙稿をご一読いただければ嬉しいです。


・出典BBC記事URL
 http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8106590.stm

・Judiciary of England and Wales
 http://en.wikipedia.org/wiki/Mr_Justice


●英で初の陪審員抜き裁判・・・被告の仲間が脅す
陪審制発祥の地・英国で、被告の仲間が陪審員に圧力をかけ、公正な裁判実施が難しいとして、陪審抜きで刑事裁判が行われることになった。英高等法院【厳密には「控訴院刑事部」】が6月、検察側の要求を認めたもので、前代未聞の「歴史的判断」(BBCテレビ)となった。

この事件では2004年2月、ヒースロー空港近くの倉庫に覆面の集団が押し入り、現金約175万ポンド(約2億8000万円)を奪取。警備員1人が銃撃され、負傷した。監視カメラの映像から、ジョン・トゥーメイ被告(61)ら4人が逮捕された。いずれも同じギャング組織に所属。容疑を全面否認している。同事件は陪審評決の不成立により、これまでに3度、1審裁判を行った。1、2回目は陪審員の見解が割れ、評決に至らず、3回目では陪審員12人中、4人が途中で辞退した。

英制度では陪審員12人のうち、評決には10人以上の同意が必要。健康悪化などを理由に途中辞退できるが、最低9人が参加せねばならない。評決が不成立の場合、陪審団を改選し、裁判をやり直す。地元報道によると、辞退の理由は、被告の仲間が陪審員や家族を脅したためと見られ、検察は陪審なしの裁判を求めていた。次回裁判では、ただ1人の裁判官が判決を決めることになる。

英国では18世紀以降、殺人、強盗などの重大な刑事事件で陪審を採用している。独自の司法制度を持つスコットランド、北アイルランドをのぞくイングランド、ウェールズ地方では03年の法改正で、陪審員が圧力を受ける可能性がある場合、例外措置として陪審抜きで裁判が行えるようになった。今回が、初適用となる。

これまで3度の陪審裁判の経費は2400万ポンド(約38億6400万円)にのぼり、多くを陪審員の警護が占める。高等法院の首席裁判官は決定を下すに当たって、「4回目を行えば、陪審員の警護などで新たに600万ポンド(約9億7000万円)がかかる。合理的ではない」と述べた。陪審制度を専門とするユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのシェリル・トーマス名誉教授は、「この程度の事件で、陪審員を守れないようでは、組織犯罪がらみの陪審審理は今後できなくなる」と指摘している。(読売新聞:7月1日)


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The Court of Appeal has ruled that a criminal trial can take place at Crown Court without a jury for the first time in England and Wales.

The Lord Chief Justice, Lord Judge, made legal history by agreeing to allow the trial to be heard by a judge alone. It is the first time the power has been used since it came into force in 2007.


控訴院刑事部(The Court of Appeal)はイングランドとウェールズの歴史上初めて陪審員抜きの刑事裁判を刑事法院(Crown Court)で行なうことを決定した。

高等法院王座部主席裁判官【The Lord Chief Justice(LCJ):尚、LCJは、通常、控訴院刑事部の部長も兼職します。】であるLord Judge卿【この「Lord Judge」は固有名詞です!】は、【陪審員抜きの】1人の裁判官のみで審理を行なうことに同意したことで法の歴史に新たな1ページを加えたのである。而して、この決定は2007年に新たな法律が施行され控訴院刑事部に【陪審員抜きの裁判を許可する】権限が与えられて以来始めての決定である。

・The Lord Chief Justice
 http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_Chief_Justice_of_England_and_Wales


The case concerns four men accused of an armed robbery at Heathrow Airport in 2004. The judge said jury "tampering" was a "very significant" danger.

Lord Judge told the court the cost of the measures needed to protect jurors from potential influence, such as the services of police officers, was too high and that such measures may not properly insulate them.

For example, they "did not sufficiently address the potential problem of interference with jurors through their families," Lord Judge said. ・・・

In addition, it would be "totally unfair" to impose such "additional burdens" on individual jurors, he continued.

The Lord Chief Justice said the trial of the four men - John Twomey, 61, Barry Hibberd, 41, Peter Blake, 56, and Glen Cameron, 49, who are all standing trial for robbery - would "take place without a jury in due course".


本件は2004年ヒースロー空港での武装した犯人による強盗事件に関わったとされる4名の事件。Lord Judge卿は、陪審員に対する「妨害干渉」は「極めて重大な」危険性を帯びていると述べた。

而して、Lord Judge卿は、陪審員を潜在的な脅威から防御するために必要な措置を講ずるための費用は、すなわち、警察官による陪審員の警護等に要する費用は尋常な額ではなく、かつ、そのような措置によっても陪審員の独立性を確保することは容易ではないとも語った。

畢竟、警察官による警護によっても、「陪審員の家族に対する脅迫によって陪審員が干渉されることの可能性には十分には対処できない」と。そうLord Judge卿は述べられたのだ。(中略)

更に、Lord Judge卿は個人の陪審員に【陪審員としての通常の負担を超える】「追加の負担」を課すことは「全く不公平」なことになろうとも付け加えた。

高等法院王座部主席裁判官は、而して、全員が強盗の罪を問われているJohn Twomey(61歳)、 Barry Hibberd(41歳)、Peter Blake(56歳)、そして、Glen Cameron(49歳)の4名の審理は「法の規定に従い陪審員抜きで行なわれる」のが相当であると述べられたのだ。



Lord Judge, sitting with Lord Justice Goldring and Mr Justice McCombe, explained the case, which had been brought to trial three previous times, concerned "very serious criminal activity".

It included possession of a firearm with intent to endanger life, possession of a firearm with intent to commit robbery and conspiracy to rob, he said. ・・・


Goldring控訴院裁判官とMcCombe高等法院裁判官と同席した場で、Lord Judge卿は、過去に三回の審理がなされてきたのであるけれども、本件は「極めて重大な犯罪」に関係するものと説明された。

すなわち、本件の訴因には、他者の生命を危うくする意図を持った小火器の所有、強盗目的の小火器の所有、そして、強盗の共同謀議が含まれているとLord Judge卿は語ったのである。(中略)

・Lord Justice of Appeal
 http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_Justice_of_Appeal

・High Court judge
 http://en.wikipedia.org/wiki/High_Court_judge


Lord Judge described trial by jury as a "hallowed principle" of British justice, but said the Criminal Justice Act 2003 did allow a trial to be heard by a judge alone in certain circumstances.

"Where it arises the judge assimilates all the functions of the jury with his own unchanged judicial responsibilities," he said. "This function, although new in the context of trial on indictment, is well known in the ordinary operation of the criminal justice system and is exercised for example by district judges [magistrates' courts] in less serious, summary cases."

A Crown Prosecution Service spokesman said: "Rather than the case not proceeding at all this decision enables these defendants, who we allege are involved in serious criminal activity, to be tried and brought to justice."


Lord Judge卿は、陪審員による審理を英国司法の「聖なる原理」と位置づけたのだけれども、しかし、2003年の刑事裁判法(Criminal Justice Act 2003)はある条件の下では1人の裁判官単独での審理を認めているとも述べている【ちなみに、刑事法院(Crown Court)が第一審裁判所となる場合には1人の裁判官が審理を担当するのは通常のことです】。

「そのような場合には、裁判官は自身の本分たる裁判官としての責任と同時に陪審員のすべての機能をも併せ持つことになる」。而して、「【これまで陪審員による審理が不可欠とされてきた】正式起訴による裁判(trial on indictment)においては全く新しい事態ではあるけれども、【陪審員と裁判官の両者の役割を1人の裁判官が兼ねる】この裁判官の機能は、刑事司法制度の通常の運用を通してよく知られているものであり、例えば、地方で開廷される裁判所の裁判官[治安判事裁判所([magistrates' courts)]」にとっては、より重大ではない略式起訴の事件(summary cases)に関して実際に行なわれているものなのだ。そうLord Judge卿は述べられた。

英国検察庁(Crown Prosecution Service)の報道官は、「訴訟の手続が全くもって動かないような事案と比べれば、今回の決定によって、重大な犯罪行為に関与していると我々が看做している被告人に対して裁判を行なうことも可能になるのではないか」とのコメントを出した。


But Liberty director of policy Isabella Sankey said: "This is a dangerous precedent."

"The right to jury trial isn't just a hallowed principle but a practice that ensures that one class of people don't sit in judgement over another and the public have confidence in an open and representative justice system. What signal do we send to witnesses if the police can't even protect juries?"


しかし、【国際法律家協会英国支部でもある英国の人権団体】リバティ(Liberty)の政策担当理事Isabella Sankey氏は、「これは危険な先例になりうる」と警鐘を鳴らしている。

すなわち、「陪審員による審理を受ける権利は単に聖なる原理にとどまるものではなく、ある特定の階級の人々だけが他の階級の人々を裁く立場にはならないことを確実にし、かつ、開かれた、そして、我々の代表者によって運営されている司法制度というものに対する信頼を公衆が保持することを確実にするための実践的営為なのです。もし、警察が陪審員さえ警護することができないということならば、そのことは証人に対してはどんな意味を持つことになるでしょうか」、と。そうSankey氏は述べている。


The new trial will be the first Crown Court case in England and Wales to be heard by a judge alone using powers under Sections 44 and 46 of the Criminal Justice Act 2003, which came into force in July 2007.

It allows for a trial without a jury when there is evidence of "a real and present danger that jury tampering would take place" and where additional measures to prevent it would not fully succeed.


これから行なわれる本件の裁判は、2003年の刑事裁判法(Criminal Justice Act 2003)44条及び46条にもとづいて行なわれる1人の裁判官が単独で行なうイングランドとウェールズで最初の審理となるだろう。而して、2003年の刑事裁判法は2007年の7月には施行され効力をもっていたのであるけれども。

「陪審員に対する妨害干渉の実際的かつ現実的な危険」が存在する証拠がある場合には、而して、そのような妨害干渉を防ぐ更なる措置が十分にはその目的を達しないと思われる証拠がある場合には、2003年の刑事裁判法は陪審員抜きの裁判を求めている。


No-jury trials are a more regular feature of justice elsewhere in the UK.

Diplock courts have been used in Northern Ireland since 1973 to combat jury intimidation by paramilitary groups.

And some criminal cases in Scotland are heard by a sheriff in the Sheriff Court or by a bench of one or more lay justices in the District Court.


実際、陪審員抜きの裁判は英国においてむしろ通常の司法の形態でさえある。

Diplock courts【テロリストから市民を守るために1972年の法改正で北アイル ランド地域に新設された陪審員抜きで審理を行なえる裁判所】は1973年【の施行以来】準軍事的なテロ組織による陪審員に対する脅迫に対抗すべく北アイルランド地域で運用されてきた。【厳密な意味の「diplock courts」は2007年に廃止されましたが、陪審員抜きの裁判という広義の意味での「diplock courts」は現在でも北アイルランドで運用されています】

他方、スコットランドでは幾つかのカテゴリーの刑事事件に関しては、州裁判所において1人の州裁判官によって(by a sheriff in the Sheriff Court)審理が行なわれるか、あるいは、1人もしくは数人の素人の裁判員が構成する裁判官によって地方裁判所で審理が行なわれている。

・Diplock courts
 http://en.wikipedia.org/wiki/Diplock_courts



■参考記事
・応報刑思想の逆襲☆裁判員制度を契機に司法の「常識化」を推進せよ(1)~(4)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58015397.html

・野蛮な死刑廃止論と人倫に適った死刑肯定論
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/56484072.html




(2009年7月11日:yahoo版にアップロード)

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