海外報道紹介★ドイツの原発廃止決定は民主主義への挑戦である(上)

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福島第一原子力発電所の事故の余波はドイツを直撃しました。5月30日、ドイツのメルケル政権は、2022年までにすべての原発を廃炉・停止することを決定したのですから。昨年、2010年の秋に、それまでの緩やかな脱原発路線を見直しして原発肯定に舵を取ったばかりのメルケル政権の急進的な脱原発路線への政策変更。その原因の一つが<福島の衝撃>だったことは間違いないでしょう。

けれども、ドイツの原発政策変更には、しかし、<福島>の衝撃の大きさにともすれば見逃されかねない社会思想的な問題点が孕まれているのではないか。而して、本稿はこのドイツの原子力エネルギー政策変更を巡る政治プロセスを民主主義の視座から俎上に載せたTimeの記事の紹介です。尚、予備知識の補充のために、Wall Street Journalの6月1日付社説「ドイツの原子力パニック」の産経新聞訳を転記しておきます。

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原発を巡って、長らくドイツには、「反原発-脱原発」路線の緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)と社会民主党(SPD)、他方、原発肯定派のキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟(CDU/CSU)と自民党(FDP)という大枠がありました。而して、2005年から2009年まで続いたCDU/CSUとSPDという左右の二大政党による大連立政権体制が終焉を迎え、CDU/CSUとFDPの保守中道の連立政権が誕生した以上、昨秋の脱原発路線見直しは当然のことであったと思います。

而して、2011年3月11日午後2時46分。昨秋の脱原発路線見直しに対する世論の強い批判を目にしてメルケル政権が浮き足立っていたところに東日本大震災が惹起したのです。蓋し、メルケル政権にとって、<福島>は、ある意味、不人気な政策を固定支持層に遠慮することなく変更できる大義名分そのものであり、実際、渡りに船とばかりに、メルケル政権は、3月14日、急転直下、「「「脱原発路線」見直し」の見直し」を行なう。その「見直しの見直し」の初手が「モラトリアム」の発動。すなわち、ドイツ全国にある17基の原発のうち、定期点検中の1基に加え稼働中の旧型の7基に対して安全点検名目で3ヵ月の停止を命令したのです。尚、紹介したTimeの記事の中で、「違法措置」と指摘されているのはこのモラトリアムによる原発停止命令のことです。

以下、紹介する記事の出典は、Thomas Schmid氏の「The Hidden Fallout from Germany's Sudden Nuclear Shutdown:ドイツの唐突な原発廃止決定が降らせる政治的な<死の灰>」(Time, June 2, 2011)です。



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The biggest advantage of democracy is the possibility of getting rid of governments you don't like in a peaceful way. That doesn't sound like much. Yet it sums up all the wisdom and beauty at the core of a democratic system. In a democracy, you can say A, but you can also say B, just as you can rely on the assumption that nothing has to last forever. Everything can be changed, amended, courses reversed. In short, the very life and soul of democracy is that there are always other options.

Germany's federal government is now abusing that basic rule in a scandalous way. There can be no doubt that the country needs to be looking at a smart mix of different energy sources for the future, and that developing viable alternatives to atomic power is an urgent necessity. Yet the manner in which the federal government has rushed to its decision to put a definitive stop to the use of nuclear energy by 2022 runs counter to all rules of democratic procedure.     


民主主義の最大の利点は好ましからざる政府を平和裏に退場させることが可能なことである。民主主義の利点とはそれ以上のものではない。実に、民主主義の属性として語られる諸々の智恵や美点は、畢竟、煎じ詰めれば平和裏の政権交代の可能性という一事に収斂する。例えば、民主主義の立場からは、誰もがA案を主張することも許されるし、B案を主張したとしてもなんら問題はない、而して、この世に永続する不変の真理など存在しないという信条を掲げることもまた許される。すべての物事は変化し得るし、修正され得る、そして、政治の路線もまた撤回変更され得る。すなわち、民主主義の生命と民主主義の魂とは常に複数の選択肢の存在を許容することに他ならない(★)。

ドイツの連邦政府は、【鳩山由紀夫氏的な、あるいは、菅直人氏的な】恥じも外聞もない破廉恥なやり方で、その基本原則を棄損しようとしている。この国が将来に向けて、上手にバランスのとれた多様なエネルギー源の組み合わせを必要としていることは疑いようがない。他方、この国にとっては原子力に替わる実用可能なエネルギー源の開発が焦眉の急の課題でもあろう。しかし、ドイツ政府が政策判断を行なったやり方はことごとく民主主義的な手続と真っ向から衝突するものだ。すなわち、2022年までに原子力エネルギーの利用を最終的に止めるという判断に雪崩れ込んだドイツ政府の手法はありとあらゆる民主主義の原則を踏みにじるものである。


★註:民主主義の意味と限界
蓋し、「民主主義」とは実に多義的な概念であり、例えば、それは「君主制」に対する「共和制」の意味に取られてきたこともあれば、欧米社会でも第二次世界大戦までは長らく「衆愚政治」や「ポピュリズム」、更には、「人権」や「自由」を蹂躙する「権威主義」や「全体主義」的なニュアンスとして用いられてきました。

後者に関しては、例えば、「共産主義-社会主義」が抑圧的な政治体制でしかあり得ないことを2千万人以上の粛清の犠牲者の墓碑銘でもって歴史的に証明した、レーニンのボリシェビキが「ロシア社会民主労働党:Russian Social Democratic Labour Party」の分派であること、また、あのナチスの正式名称が「国家社会主義ドイツ労働者党:Nationalsozialistische Deutsche Arbei terpartei」であり、「社会主義」を標榜するこの党が1933年の授権法によって合法的かつ世論の過半の支持を得て民主的に政権を奪取した故事を想起すれば思い半ばに過ぎるのではないでしょうか。

現在でも、それは、(イ)民族の文化・伝統・歴史、あるいは、国民意識としてのナショナリズムと鋭く対立する、均一でアトム的な人間観と親しいリベラル派の政治シンボルであるかと思えば、他方、(ロ)中世的と近代的な「法の支配」を好ましいものと捉える-伝統と慣習を尊重する-保守主義が擁護する、最善なきこの世の次善の政治思想でもある。

もっとも、リベラリズムにせよ保守主義にせよ、現代の民主主義擁護論は、(a)「立憲主義」の前提、すなわち、国民の多数の意思や国家権力によっても侵害棄損されるべきでない政治哲学的価値(人権や文化・伝統の価値)が存在すること、そして、(b)民主主義が機能するためには国民・有権者に十分な情報が供給されていなければならず、かつ、国民・有権者自身がそれらの情報を理解して解釈できる知性と徳性を磨くことが可能であることをその擁護の前提条件と考えてはいるのでしょうけれども。

而して、「民主主義」というこの言葉をどのような意味で使うかはかなりの程度その論者の自由に属することでしょうが、少なくとも、近代の「主権国家=国民国家」成立以降の憲法論において用いられる場合には、①「民主主義」とは政治制度論においては(民主主義とは源泉を異にする、国民主権イデオロギーのコロラリーとしての国民代表制と合体した)「代表民主制」とほぼ同義であり、他方、②政治イデオロギー、社会思想としては、自由主義および価値相対主義の政治哲学的の言い換えであることは間違いないと思います。民主主義の意味をこう捉えることが満更間違いでないとすれば、(民主主義擁護の前提条件としての立憲主義や法の支配の契機を看過している点を除けば、)このパラグラフで展開されている著者の民主主義理解も基本的にはこれら①②を踏まえたものと言えるでしょう。

畢竟、この②の点を喝破した、ハンス・ケルゼン『デモクラシーの本質と価値』(1920-1929)は、ある意味、それまでのルソー的やボリシェビキ的な全体主義としての民主主義の概念を<脱構築>した、20世紀社会思想の地味だけれど最大の果実の一つと言っても過言ではないと私は考えています。

加之、注意すべきは、民主主義とは、それが、不承不承にせよ自発的な服従を国民から引き出すに足るような政治制度の設計理論であり、かつ、政治支配の正当性を巡る社会統合イデオロギーである限り、民主主義は、論理的、原理的に<暴力>を否定可能なものでも/否定するものでもないということです。換言すれば、民主主義とは、「そのある一線を権力の行使や政治の状況が越えない限り国家権力も国民も暴力の行使は控えましょうね」という約束、謂わば「暴力行使のプリコミットメント」に他ならない。尚、民主主義に関する私の基本的な考えについては下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。   


・民主主義とはなんじゃらほい(上)~(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/53753364.html

・憲法における「法の支配」の意味と意義
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60444639.html

・中川八洋「国民主権」批判論の検討(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60044583.html


原発71


<続く>

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