TPP断固支持-ドイツ法典論争あるいは旧民法典論争としてのTPP加盟問題




私は、資本主義的な生態学的社会構造(「商品」と「市場」を結節点とした、自然を媒介とする人と人が取り結ぶ社会的な関係性の総体)との同床異夢が不可避な現下の<乏しき時代>に保守主義を信奉する者として、TPP加盟締結には断固賛成です。もちろん、TPP加盟には幾つかの前提が遵守されるべきとも考えていますけどね。

而して、賛成派にもいろいろな人がおられる由。あるブログ友によれば、池田信夫氏等の賛成論者の中には(反対論者を「経済学のイロハ」も知らぬ輩と見下してのことなのでしょうか)、「TPPに反対している人間は、比較優位すら理解できていない」と発言する向きもあるらしい。確かに、例えば、TPP推進の論陣を張っている朝日新聞の社説を読むにつけ、そのような「上から目線」を私も感じないではありません。

経済学的に言えば、確かに、自由貿易は各国の産業の競争力を高め、トータルの国民経済を効率化する。而して、各国は各国の「ポルトガルのワイン」(他国に対して自国が比較優位性を持つ商品の象徴。)の生産に特化すれば、(国民経済の射程から国際経済の領域にその管轄域(Jurisdiction)を拡大した)「神の見えざる手」によって諸国民は共に豊かさを享受できるの、鴨。しかし、この経済学的の帰結は、幾つかの条件下でのみ成立し得るもの。すなわち、それは現実の「国民経済-国際経済」の本質的な属性を捨象した<机上の空論>にすぎません。

大急ぎで補足しておくと、あらゆる理論は大なり小なり<机上の空論>であり、そのこと自体は<理論>の価値や効用を否定するものではないでしょう。しかし、逆に、自説が<机上の空論>であること、<机上の空論>でしかないことの自覚は、あらゆる理論に関してそれを用いる論者が常に意識しておくべきことだと思います。而して、かって、「鳥の翼の構造がいかに精緻なものであったとしても、真空の中では鳥の羽ばたきは空虚なものに違いない」と語ったパブロフの箴言はこのようなコノテーション(connotation)において理解されるべき、鴨。

畢竟、あらゆる理論が<理論>としての権威と尊敬、威力と影響力を社会から与えられる前提の一斑は、新カント派の言う意味での「価値相対主義」、並びに、カール・ポパーの批判理論を格納した分析哲学の言う意味での「反証可能性」に他ならない。と、そう私は考えています。閑話休題。



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前述のブログ友は、経済政策の帯びる、就中、農業経済政策の帯びる「安全保障」機能の点から比較優位論を批判しておられる(↓)。それは正論と言えると思います。<ワイン>が高値で安定的に輸出できるとしても、選択と集中の産業構造転換のプロセスの結果、その<ワイン>の生産のために<米>の生産が消滅するとすれば、世界的な穀物不作が惹起した場合には、日本国民は山積みされた<ワイン>輸出用のコンテナの傍らで国際経済の神に<ワイン>で乾杯を捧げつつ餓死するしかなくなるだろうから。

昔、タクラマカン砂漠の探検からの帰還を歓迎するレセプションで、探検中に一滴の水もなく1週間を過ごしたエピソードを語ったスウェン・ヘディンの話を聞いて、カール・ラルソンは、「俺はこの7年間、水なんか一滴も飲んだことはないぜ」と呟いたらしい。しかし、人口減少に転じたとはいえ1億余の日本国民の中でも、7年と言わず1週間、ワインがあれば水も食料も不要と言う方はそう多くはないのではないでしょうか。

・「TPP」とやら
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60845999.html


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蓋し、「経済学」も「比較優位論」もそれは、現実の社会と世界における妥当な経済政策を単独で演繹できる類の知の枠組みではないのです。このことは上記ブログ友が俎上に載せられた「安全保障」の切り口からも言えるのですが、更に、ミクロ的には経営のイノベーションが、マクロ的には産業構造の転換が恒常的に惹起する事実からも自明でしょう。畢竟、個々の商品の比較優位性は、論理的に想定されるだけの「静止した時間」、すなわち、論理的な<現在>においてのみ成り立つ思考枠組みにすぎないのです。

繰り返しますが、私は、その抽象性を理由にして経済学一般を否定する気はありません。なぜならば、そのような抽象化は何ほどかの理論においては不可避であろうし、他方、その抽象化ゆえに理論の斬れ味も破壊力もまた担保されるのでしょうから。

しかし、例えば、産業構造の転換がコストレスで、瞬時に具現されるとか(要は、石炭から石油へのエネルギー政策の転換に伴い、20数万の炭鉱労働者とその家族が、住み慣れた北海道夕張市や福岡県大牟田市から、コストレスで瞬時に京浜・中京・阪神の工業地帯にある比較優位性の高い商品の生産セクターに移動できるとか! できるかそんなもん! そんなん聞いたら大牟田出身者は怒るぞ!)、または、消費側にせよ供給側にせよ各プレーヤーの行動選択は単独では需給変動に影響を及ぼさないとか、消費者と生産者の持つ情報は同一でありそのグループの内外で均一であるとか、加之、各プレーヤーは自己の効用を最大にすべく合理的に行動するとか。これらの諸前提と同様に、比較優位論のモデルもまた<この世のもの>とは思えない諸前提の上の議論にすぎないのです。

例えば、名古屋の中堅予備校にすぎなかった河合塾が天下の<河合塾>になれたのも、業界では有名なその中興の祖とも言うべき経営者の方が、「偏差値」というコンセプトを導入して、その偏差値の表示を誘引に全国模試でもって潜在的顧客を囲い込む効率的なマーケティング戦略を敢行したからである。

また、中学受験・高校受験の地場の学習塾にすぎなかった後発のナガセが四大予備校の一角を占める<東進ハイスクール-東進衛星予備校>に飛躍できたのも、カリキュラムの細分化・構造化と、構造化・細分化されたそれらの諸項目を教えるに当代最高の講師陣を揃えたこと、並びに、その<商品>群を<コンテンツ>と位置づける(記号論的に言えば、「二重分節:double articulation」を持つ、要は、あるタイトル講座を下位の諸項目の連関性の総体と看做す、)発想の転換によって衛星放送を始め映像教材による<コンテンツ>の遠隔地供給を具現し得たからです。 


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何を私は言いたいのか。

蓋し、<動態としての時間>の観念を前提にした場合、ある商品が<現在>保有している比較優位性なるものもまた変転極まりないということ。そして、そのダイナミズムの動因は、イノベーションを敢行する経営者や当該組織に集うメンバーの才能と努力、情熱と天運に他ならないということです。

畢竟、福島の田舎町で夢想されたハワイアンセンターが、日本のみならず世界に通用する商品価値を獲得したこと、而して、<2011年3月11日午後2時46分>の試練からもそれが見事に再起出来たことも、ならば、この<静態としての時間>の観念における比較優位性とは位相を異にする、時間軸のダイナミックスの中で慎ましやかに粘り強く連続的に炸裂した福島の人々の才能と努力、情熱と天運の帰結以外の何ものでもない。

だっぺ? 閑話休題。



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現実の経済政策論の一斑としてのTPP問題に関しては、比較優位性などは無関係とは言わないがそう決定的なものではない。而して、このことをTPP加盟の是非に引きつけて敷衍すれば、TPPの問題はドイツの法典論争や明治初期の旧民法典を巡る論争と些かパラレルな側面がある。両者はその構図を同じくしていると私は感じます。

ドイツ法典論争にせよ日本の旧民法施行論争(★)にせよ、反対派のサヴィーニも穂積陳重も、賛成派のチーボもボアソナードも法典化の必要性の認識に関しては一致していた。サヴィーニや穂積陳重、それに対するチーボやボアソナードの差は、よって、(学説史的意味しか持たない、要は、「博物館の陳列物」にすぎないバークの保守主義などではない、現在の「保守主義」の源流の一つたるベンサムが唱道し、その高弟ジョン・オースティンがその根拠を「法理学的=法哲学的」に基礎づけた)近代主権国家における「法典化の不可避性」を共に踏まえた上での、次の2点、

①どんな内容のものを
②どの時期に制定するか


の対立に収束するのではないでしょうか。

もしそう言えるのならば、その構図はTPP問題と相似的であろう。
と、そう私は考えるのです。

★法典論争
ドイツ法典論争は、ナポレオン戦争後、ドイツ諸邦の民法をいかにすべきかを巡る論争。ナポレオンの影響によって導入されたフランス民法典を廃棄することには大方の論者が賛同していたものの、(甲)ナポレオン法典、若しくは、(ドイツ諸邦に共通する法という意味の)ドイツの普通法たるローマ法を基礎に、ドイツ全体に効力を持つ「統一的なドイツ一般民法典:eines allgemeinen bürgerlichen Rechts für Deutschland」を制定すべきだ、(乙)旧来のゲルマン慣習法に復帰すべきだ(尚、「旧来のゲルマン慣習法」とは、実は、普通法たるローマ法がドイツ各地域の固有法たる慣習法に<翻訳>された混合物です。)との両論が激突した。

旧民法典論争とは、お雇い外国人のフランス人ボアソナードのリーダーシップによって起草された旧民法(明治23年法律第28号、第98号)の施行の是非を巡る論争。(甲)フランス法派の施行断行論に対して、(乙)ドイツ法派と英法派の連合軍による施行延期論は、旧民法が(その内容は、実は、準備期間の短さと準備のために与えられた明治政府からの便宜の貧弱さを鑑みれば、実によく当時の日本社会の慣習等も踏まえたものであるにしても、しかし、ナポレオン法典の蒙古斑を刻印された)自然法思想に立脚する点を批判して、須く、「国民国家=民族国家」の法典はその国家社会に自生する、法の歴史性・民族性をこそ重視すべきであると論じた。歴史的な帰結としては、日独ともに法典反対派が勝利しました。

尚、ドイツ法典論争における反対派は、純粋のゲルマン法なるものの尊重を訴えたのではなく、あくまでも、ローマ法化したゲルマン法の再構築を主張したこと。加之、些か誤解を孕みながら「歴史法学」として括られる節もなくはない反対派の主張は、あくまでも、法の実効性と妥当性の基盤としての「慣習を尊重する国民の法意識」に力点を置いたものに他ならず、「ある任意の規範が実定法であるか/実定法であるべきか」の認定をヘーゲル的な「民族の伝統」「民族精神」なるものから自動的に演繹できるとするものではなかったことは注意すべきです。




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蓋し、TPP問題も、現下のグローバル化の昂進を鑑みるならば、そのような多国間条約の必要性は、すなわち、「総論」に関しては賛否の両陣営ともそう異論はないのではないでしょうか。而して、TPP加盟の是非を巡る争点は<各論>の差に収斂する。すなわち、それはTPPの内容と締結時期、換言すれば、それを締結・批准するまでの国内体制の整備の内容と程度と準備期間の長短を巡る対立なの、鴨。

畢竟、KABUは<TPP>には賛成ですが、少なくとも、現在におけるTPP加盟、就中、現下の(日米双方の、かな?)民主党政権下でのTPP加盟締結には断固反対の立場です。蓋し、それは<自由貿易>には賛成だけれど、日本が採用するべき自由貿易は、(関税・食品安全基準を含む貿易管理法制、および、雇用・産業構造の変革、外国人管理法制等々)日本の国益および国柄と親和的で確固たる防波堤を作って初めて是認できると考えるからです。

蓋し、この世に純粋な<自由貿易>などは経済学の教科書の中を除けば存在しません。その亜流の政策さえも、圧倒的に強い国が自国の利益にトータルでは適う状況下で自国の国益のために採用した場合、具体的には(各々30年足らずの)ビクトリア朝後期の英国と第二次大戦後のアメリカにしか存在しなかった。ならば、TPPの議論に「比較優位性」などを持ち出す際には、各論者はその賛否にかかわらずこの経済史的事実を反芻すべきではないか。

蓋し、ある<物語=理論>に関して、例えば、「法の支配:rule of law」の原則の曲解からか、国民の法意識の変遷をもってしても不変なる<国柄>を実定憲法の規範内容と強弁する<物語=理論>が、いかに、その信奉者の間では美しく甘美な真理と感じられようとも、彼等のその印象の実在も、とりあえず、(憲法の事物の本性および憲法慣習を含む)日本の現行憲法の規範内容の確定作業とは無縁であり、彼等の印象や願望は法学方法論的には根拠を全く欠落したものである。

更に、<物語=理論>について比喩を使い敷衍すれば、「理論=蜂の子ハッチの物語」が読む者に感動を与えるということと、「理論的の帰結=ハッチが実在するということ」は別の事柄である。ならば、我々は<物語=理論>の条件と射程に関して常に向自的でなければならない。人間存在とはそのような<物語>と<現実>を重層的に生きる存在でしかないのでしょうからね。と、そう私は考えます。

尚、「法の支配」と保守主義を巡る私の基本的な考えについては下記拙稿をご参照いただければ嬉しいです。

・憲法における「法の支配」の意味と意義
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60444639.html

・中川八洋「国民主権」批判論の検討(上)(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60044583.html

・保守主義の再定義(上)~(下)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60444711.html

・「左翼」という言葉の理解に見る保守派の貧困と脆弱(1)~(4)
 http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/60002055.html


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テーマ : TPP
ジャンル : 政治・経済

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